賃貸借終了後の損害金としての金員請求は、「賃貸借が原告主張の時点より後に終了したとすれば、その時までは賃料として請求する」との趣意を含むと解するのが一般であるが、本件における事情(当審判決理由参照)のもとにおいては、賃料請求としての趣意を含むものと解するのは相当でない。
賃貸借終了後の損害金としての金員請求が延滞賃料としての請求の趣意を含むかどうかが争われた事例。
民訴法第2編第1章
判旨
賃貸借契約の不法占拠を理由とする損害金請求において、契約存続期間中の分については、特段の事情がない限り賃料請求の趣旨を含むと解すべきであるが、既になされた賃料供託等により債権が実質的に満足を得ている場合には、賃料として支払を求める意思はないものと解される。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の終了を前提とする不法占拠に基づく損害金請求について、契約が存続していたと認定された場合、裁判所は当該請求を「賃料請求」として認容できるか。また、その意思解釈の限界はどこにあるか。
規範
賃貸借契約の終了を主張して不法占拠に基づく損害賠償を請求する場合、契約存続期間中の請求については、特段の事情がない限り、契約終了前は賃料として、終了後は損害金として支払を求める趣旨を含むと解するのが相当である。ただし、既に適法な賃料の供託がなされ、債権者が還付を受け、または容易に還付を受け得る状態にある等の事情があるときは、当該期間の金員を本訴で賃料として求める意思はないものと解すべきである。
重要事実
上告人は、昭和30年9月に建物賃貸借が終了したと主張し、同年10月以降の不法占拠を理由に月額4万円の損害金を請求した。しかし、実際には契約は昭和35年8月まで存続していた。この間、被上告人は昭和33年8月分から35年3月分までの賃料(計80万円)を供託し、上告人はこれを受領していた。また、昭和30年10月分から33年7月分までも賃料が供託されていた。原審は、受領済みの期間については賃料請求の趣旨を含まないと判断し、不法占拠が成立しないとして棄却した。
事件番号: 昭和38(オ)391 / 裁判年月日: 昭和39年8月20日 / 結論: 棄却
通常の家屋賃貸借を当事者の合意で一時使用の賃貸借に変更するは法律上可能である。
あてはめ
本件において、昭和30年10月から35年3月までの期間については、被上告人らにより適法な賃料供託がなされ、上告人が既に還付を受けたか、容易に還付を受け得る状態にあった。この場合、賃料債権は実質的な満足を得ているため、あえて本訴で賃料として支払を求める意思はないという「特段の事情」が認められる。したがって、当該期間の請求は損害金請求のみであり、契約存続中は不法占拠が成立しない以上、棄却せざるを得ない。他方、供託等の事情がない昭和35年4月以降については、損害金請求に賃料請求の趣旨が含まれると解して認容することが可能である。
結論
契約存続期間中の損害金請求は、既弁済等の特段の事情がある場合を除き、賃料請求の趣旨を含むものとして扱うべきであるが、本件の当該期間については特段の事情が認められるため、請求を棄却した原判決は正当である。
実務上の射程
訴訟物の合理的な解釈に関する判例である。原告が不法占拠を主張していても、被告側の反論により契約存続が認められる場合に、釈明等を通じて賃料請求への転換や予備的請求の追加を促す実務上の指針となる。答案上は、弁論主義の観点から、申立ての趣旨を合理的に解釈して紛争の一回的解決を図るべき場面で引用する。
事件番号: 昭和38(オ)567 / 裁判年月日: 昭和39年9月22日 / 結論: 棄却
建物明渡義務不履行による損害金の請求を受ける被告側で当該建物に対する地代家賃統制令適用の基礎たる事実関係を主張立証しない以上、右損害金算定の基礎として相当賃料を認定するにあたり同令の適用を顧慮しなかつたとしても違法といえない。