投票立会人席と投票記載場所との距離が最も近いところで約二メートルであつても、投票立会人席で選挙人の投票の記載を手の動きによつて了知することができたとは確認できない事実関係のもとでは、投票の秘密が侵されたということはできない。
投票記載所の設備と投票の秘密。
公職選挙法施行令32条
判旨
投票所における立会人席と記載場所の距離が2〜7メートル程度あり、手の動き等から投票内容を了知できない状況であれば、投票の秘密を侵害したとはいえず、選挙無効原因には当たらない。公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反することがある」場合でも、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがない限り選挙は無効とならない。
問題の所在(論点)
投票所における立会人席と記載場所の距離が近接していることが、投票の秘密を侵害する設備不備として公職選挙法205条1項の規定違反にあたるか。また、かかる違反が選挙の公正を害し、結果に異動を及ぼすおそれがあるといえるか。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反することがある」とは、選挙の手続について法律又はこれに基く命令の規定に違反することを指し、かつ、その違反が「選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある」場合に限り、選挙を無効とする。投票の秘密(憲法15条4項)に関わる設備不備については、具体的に投票内容が他者に知られ得る客観的状況があったか否かにより判断される。
重要事実
町議会議員選挙において、複数の投票所(第一から第一一まで)の設備につき、投票立会人席と投票記載場所との距離が2メートルから7メートルであった。上告人は、この距離が近すぎるため投票の秘密が侵されたと主張し、また町長選挙の投票との混同や姓のみの投票の有効判定に不正があったとして選挙無効を訴えた。
あてはめ
本件では、立会人席と記載場所の距離が最小2メートル、最大7メートル確保されていた。原審の認定によれば、この距離感では立会人が選挙人の手の動きによって投票内容を了知できた事実は確認できない。したがって、投票の秘密が侵されたという前提自体を欠く。また、町長選挙の投票との混同や不適切な有効判定の事実も認められず、選挙の公正が害されたとは認められない。
結論
本件選挙の設備や開票手続に公職選挙法違反は認められず、選挙の結果に異動を及ぼすおそれもないため、選挙は無効ではない。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、投票所の設営等の管理的・技術的な瑕疵を主張する場合、単なる形式的違反(距離の近さ等)だけでなく、それが「投票の秘密」を実質的に侵害し、かつ「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」があることを具体的事実に基づき論証する必要があることを示す。事実認定の重要性を強調する射程を持つ。
事件番号: 昭和33(オ)1052 / 裁判年月日: 昭和34年4月28日 / 結論: 破棄自判
選挙人名簿対照係席が投票立会人席から見透すことができない投票所の施設は、公職選挙法施行令第三五第一項の趣旨に反するけれども、右対照係が行つた選挙人確認手続に違法の点がないときは、右投票所で行われた選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和35(オ)1105 / 裁判年月日: 昭和36年1月20日 / 結論: 棄却
投票所の設備が公職選挙法施行令第三二条に違反していても、選挙人がその自由な意思に従つて投票し選挙の自由公正が害されることがなかつたと認められる場合は、選挙を無効とすべきではない。