投票所の設備が公職選挙法施行令第三二条に違反していても、選挙人がその自由な意思に従つて投票し選挙の自由公正が害されることがなかつたと認められる場合は、選挙を無効とすべきではない。
投票所の設備が公職選挙法施行令第三二条に違反する場合の選挙の効力。
公職選挙法施行令32条,公職選挙法205条1項
判旨
投票所の設備が公職選挙法施行令32条に違反する場合であっても、投票所の諸般の状況を総合考慮し、選挙の自由公正が害されることもなかったと認められる状況にあれば、選挙の結果に異動を及ぼす虞はない。
問題の所在(論点)
公職選挙法施行令32条の定める投票記載所の設備要件に違反する不備がある場合、直ちに公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるとして選挙が無効となるか。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるか否かは、当該規定違反の態様のみならず、投票所の諸般の状況をも併せ勘案して判断すべきである。具体的には、規定違反が存在しても、選挙人がその自由な意思に従って投票し、選挙の自由公正が害されることもなかったと認められる状況にあったならば、同項の無効原因には当たらない。
重要事実
町長・町議会議員選挙において、第二投票所では記載所相互を遮断する障壁がなく、他人の記載内容をのぞき見ようとすれば容易に可能な設備状況にあり、公選法施行令32条に違反していた。しかし、当日の投票状況は極めて閑散としており、係員が入場制限を行っていたため混雑は発生せず、他人の記載をのぞき込んだり、窓の外から覗き見たりする者も存在しなかった。また第一投票所では、代理投票の補助者に対する候補者氏名の告知が管理者らに聞知される状況にあったが、特段の混乱は生じていなかった。
あてはめ
第二投票所の設備は遮断障壁を欠き、施行令の要求する相当の設備とはいえない違反がある。しかし、投票人数は515人に過ぎず、投票状況は平穏であり、実際に他人の記載をのぞき見る等の具体的支障は生じていない。一、二の選挙人に他人の記載が見えたとしても、選挙の自由公正を根本から害するものではない。第一投票所についても、氏名の告知が管理者らに聞知された事実はあるが、それによって選挙人の自由な意思表明が妨げられたとまではいえない。したがって、投票の秘密が広く損なわれた事実はなく、選挙の自由公正が害されたとは認められない。
結論
本件の設備違反は、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとはいえず、本件選挙は無効ではない。
実務上の射程
選挙無効の訴え(公選法205条1項)において、手続規定の違反が「結果に異動を及ぼす虞」を構成するかを判断する際のリーディングケースである。違反の存在から直ちに無効を導くのではなく、具体的事実関係(混雑状況や実際の不利益の有無)に即して「選挙の自由公正」という実質的観点からあてはめを行う際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和33(オ)1052 / 裁判年月日: 昭和34年4月28日 / 結論: 破棄自判
選挙人名簿対照係席が投票立会人席から見透すことができない投票所の施設は、公職選挙法施行令第三五第一項の趣旨に反するけれども、右対照係が行つた選挙人確認手続に違法の点がないときは、右投票所で行われた選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和36(オ)200 / 裁判年月日: 昭和36年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙事務従事者による不正行為や開票録表示数の不真正は、それが選挙の管理執行に関する規定違反にあたり、選挙の結果に影響を及ぼす蓋然性がある場合には、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とする理由になり得る。 第1 事案の概要:本件選挙において、投票所及び開票所の選挙事務従事者が不正行為を行った。…
事件番号: 昭和35(オ)677 / 裁判年月日: 昭和35年9月22日 / 結論: 棄却
代理投票が投票管理者に対する適法な申請なくして行なわれた違法があつても、補助者一名が選挙人に代つて投票用紙に候補者の氏名を記載し他の補助者がこれに立ち会い、選挙人の指示する候補者の氏名を記載したものと認められる以上、右違法によつて選挙を無効とすべきではない。