選挙人名簿対照係席が投票立会人席から見透すことができない投票所の施設は、公職選挙法施行令第三五第一項の趣旨に反するけれども、右対照係が行つた選挙人確認手続に違法の点がないときは、右投票所で行われた選挙を無効とすべきではない。
選挙人名簿対照係席が投票立会人席から見透すことができない投票所で行われた選挙の効力。
公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令35条1項
判旨
投票所の設備配置が法令に違反する場合であっても、選挙人確認手続自体が適正に行われている限り、直ちに「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるとは認められない。具体的事実に基づき、規定違反が選挙の自由公正を害し、結果を左右する客観的可能性が認められない限り、選挙無効の事由とはならない。
問題の所在(論点)
投票所の設備配置が法令(施行令35条1項)に違反している場合、実際の確認手続が適正に行われていても、公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると認められるか。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」とは、選挙の規定に違反する事実があり、それが選挙の自由公正を阻害し、それによって選挙の結果(当選人の決定等)が変動した可能性があることを指す。単なる形式的な規定違反があるだけでは足りず、その違反が確認手続の不備や不正投票を現に誘発し、あるいは選挙人の自由公正に対する信頼を客観的に損なう状況に至っていることを要する。
重要事実
昭和31年の名瀬市議会議員選挙において、第一投票所の名簿対照係(選挙人確認を行う席)が投票立会人席から見通せない位置に配置されていた。これが公職選挙法施行令35条1項の趣旨に反する設備配置であるとして、選挙無効を求める訴願が提起された。原審は、この配置が選挙の公正に対する疑惑を招き、実際に1件の違法投票(なりすまし投票)が行われたこともこの規定違反の結果であると推認して、選挙結果に異動を及ぼす虞があると判断した。しかし、同時に原審は、名簿対照係が行った実際の確認手続自体には何ら違法な点はなかったことも認定していた。
あてはめ
本件では、名簿対照係の席が立会人から見えないという設備上の規定違反は存在する。しかし、原審が認定した通り、実際の名簿対照・確認手続自体は適正に行われていた。立会人から見えないという一点をもって、直ちに選挙人が自由公正に疑いを抱くとは考えにくく、また、発生した違法投票についても、設備違反がない場合でも起こり得るものであって、本件の設備配置違反と因果関係があるとは認められない。したがって、手続の適正が担保されている以上、単なる配置の不備が選挙結果を左右する客観的な可能性を生じさせたとはいえない。
結論
本件の設備配置違反は、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとは認められず、選挙を無効とした裁決は違法として取り消されるべきである。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、規定違反が「結果に異動を及ぼす虞」に該当するか否かを判断する際、違反の態様だけでなく、その違反が実際の手続(本件では確認手続)の適正性に波及したかを重視する判断枠組みとして活用できる。形式的な規定違反があっても、実質的な公正が保たれている場合には、選挙の効力は維持される方向に働く。
事件番号: 昭和35(オ)1105 / 裁判年月日: 昭和36年1月20日 / 結論: 棄却
投票所の設備が公職選挙法施行令第三二条に違反していても、選挙人がその自由な意思に従つて投票し選挙の自由公正が害されることがなかつたと認められる場合は、選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和32(オ)968 / 裁判年月日: 昭和33年2月6日 / 結論: 棄却
一 不在者投票のため公職選挙法施行令第五五条第二項によつて、都道府県選挙管理委員会が病院の一部を指定しても違法ではない。 二 都道府県選挙管理委員会が公職選挙法施行令第五五条第二項によつて病院の一部を指定した場合に、不在者投票管理者が右指定外の病棟の入院者に不在者投票をさせた違法は選挙無効の原因となり得る。