市長選挙に際し、市選挙管理委員会のポスター検印に違法があつてもその検印が特定の候補者の当選の便宜を図る目的で故意に為されたものではなく、右違法検印によつて掲示されたポスターの数は最大限一四〇枚であつて、掲示された時間は一枚を除き一時間三〇分ないし二時間三〇分くらいであり、候補者氏名は市民によく知られており、選挙の結果候補者二名の得票数がそれぞれ一〇、三〇八票九、一〇二票であつた場合には、右違法検印に基くポスターの掲示は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと認め難く、よつて選挙を無効とすべきではない。
市選挙管理委員会がした違法なポスター検印が選挙無効の原因とならないとされた一事例
公職選挙法144条2項,公職選挙法205条1項
判旨
選挙管理委員会のポスター検印に違法があった場合でも、掲示枚数、掲示時間、有権者の認識状況、得票差等の諸般の事情を総合して、選挙の結果に異動を及ぼす可能性がないと認められるときは、当該選挙は無効とはならない。
問題の所在(論点)
選挙管理委員会によるポスターへの違法な検印およびこれに基づくポスター掲示が、公職選挙法205条1項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」場合に該当するか。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるとは、選挙に関する規定に違反する事実があり、その違反がなかったならば、選挙の結果、すなわち当選人が異なっていたかもしれないという客観的な可能性がある場合をいう。この判断に当たっては、違反行為の内容、態様、期間、影響を受けた有権者の範囲、及び得票差等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
市長選挙において、市選挙管理委員会が本来禁止されるべきポスターに検印を施すという違法な行政処分を行った。当該ポスター(「市長に八木沢を自民党a支部」等の文言)は、最大140枚掲示されたが、その時間は選挙前日の深夜約1時間30分から2時間30分程度という短期間であった。候補者2名の知名度は高く、所属政党等の属性も既に有権者に周知されていた。選挙の結果、当選者と次点者の得票差は1,206票であった。
あてはめ
まず、掲出されたポスターの枚数は最大140枚と得票差1,206票に比して少なく、掲示時間も選挙前日の深夜数時間という極めて限定的なものであった。次に、有権者は候補者の身分や所属政党を既に熟知しており、当該ポスターの内容自体も公知の事実を確認する程度にとどまるものであった。これらの事実を総合すると、当該ポスターの掲示が選挙人の投票意思決定に多大な影響を与えたとは到底認められず、違法行為がなかったとしても当落の結果が異なっていた客観的な可能性は認められない。したがって、選挙の自由公正が著しく害されたともいえない。
結論
本件ポスターに対する検印および掲示の所為は、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものとは認められないため、選挙は無効とならない。
実務上の射程
選挙無効訴訟における「結果に異動を及ぼす虞」の判断基準を示す典型例である。答案上は、(1)違反行為の量(枚数・期間)、(2)質(内容・周知度)、(3)得票差(逆転可能性)の3点を相関的に検討する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)677 / 裁判年月日: 昭和35年9月22日 / 結論: 棄却
代理投票が投票管理者に対する適法な申請なくして行なわれた違法があつても、補助者一名が選挙人に代つて投票用紙に候補者の氏名を記載し他の補助者がこれに立ち会い、選挙人の指示する候補者の氏名を記載したものと認められる以上、右違法によつて選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和33(オ)1052 / 裁判年月日: 昭和34年4月28日 / 結論: 破棄自判
選挙人名簿対照係席が投票立会人席から見透すことができない投票所の施設は、公職選挙法施行令第三五第一項の趣旨に反するけれども、右対照係が行つた選挙人確認手続に違法の点がないときは、右投票所で行われた選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和27(オ)301 / 裁判年月日: 昭和30年2月10日 / 結論: 破棄自判
投票なかばで投票箱を開き投票を取り出した違法は、常に選挙の結果に異動を及ぼす虞があり、選挙無効の原因となる。
事件番号: 昭和32(オ)370 / 裁判年月日: 昭和32年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票包を開いて改めて封印した事実や参観人が柵を乗り越えて入場した事実は、直ちに公職選挙法上の選挙規定違反とはいえず、また選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとも認められない。 第1 事案の概要:本件選挙において、一度封印された投票包を開封した上で改めて封印し直した事実、および選挙の参観人が会場の柵…