代理人が本人のためにする意思をもつて買受契約を締結する当時は、本人のためにすることを明示しなかつたが、後に代金を支払うときには、買主が本人であることを明らかにする等判示のような事情があるときは、「本人ノ為メニスルコト」を表示して契約をしたものと解するのが相当である。
代理人が「本人ノ為メニスルコト」を表示して意思表示をしたと認められた事例。
民法99条,民法100条
判旨
代理人が顕名をしなかった場合でも、周囲の状況から本人を代理する意思が黙示的に表示されていたと解されるときは、民法100条但書の類推適用を待つまでもなく、直接本人に対して法律効果が帰属する。
問題の所在(論点)
代理人が顕名を欠いたまま契約を締結した場合において、本人のための代理行為として有効に法律効果が帰属するか(民法100条の適用範囲と顕名の意義)。
規範
代理人が契約締結の際、本人のためにすること(顕名)を明らかにしなかったとしても、内心に代理意思があり、かつ、契約の過程において暗黙に本人のためにすることを示して行為したと解される場合には、民法100条本文(自己のための行為とみなす)の規定は適用されず、本人に対してその効力を生じる。
重要事実
被上告人の父Dは、被上告人を代理してEから本件物件を買い受ける契約を締結した。Dは契約の際、被上告人を代理することを明示しなかったが、当初から被上告人のために代理する内心の意思を有していた。また、代金完納時までに、買主が被上告人であることを売主側に明らかにしていた。売主側も、買主がDであるか被上告人であるかについて関心がなく、特段の異議を差し挟まなかった。
事件番号: 昭和57(オ)578 / 裁判年月日: 昭和60年11月26日 / 結論: 棄却
仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者は、当該仮登記担保権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
あてはめ
Dは内心では当初から代理意思を有しており、契約過程において買主が被上告人であることを売主に明らかにし、売主もこれを容認していた。このような状況下では、Dは「暗黙に被上告人のためにすることを示して行為した」と評価できる。したがって、有効な顕名があったものと同視でき、民法100条の適用は排除される。
結論
本件売買契約の効果は被上告人に帰属するため、被上告人は本件物件の所有権を取得する。
実務上の射程
顕名が不十分な事案において、民法100条但書の「相手方が代理意思を知り、又は知ることができた」という構成(代理の有効性)と、本判決の「黙示の顕名」という構成は実質的に近いが、本判決は行為者の態度から代理関係を肯定する論法として、事実認定上の柔軟な解決を認める射程を有する。
事件番号: 昭和25(オ)105 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、代理人が本人に代わって契約を締結する旨を表示した事実は、本人のためにすることを示したものとして顕名(民法99条1項)が認められる。また、契約成立の単なる経過的事由は請求を理由あらしめる主要事実ではないため、当事者の主張と多少異なる事実を認定しても弁論主義には反しない。 第1 事案…
事件番号: 昭和36(オ)644 / 裁判年月日: 昭和37年5月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権消滅後に、元代理人が従前の代理権の範囲を超えた行為をした場合、民法112条(代理権消滅後の表見代理)と110条(権限外の行為の表見代理)の法理を重ねて適用し、相手方がその権限があると信ずべき正当な事由があるときは、本人はその責を負う。 第1 事案の概要:上告人の養父Eは、上告人の承諾を得て土…
事件番号: 昭和38(オ)1137 / 裁判年月日: 昭和40年3月26日 / 結論: 棄却
甲乙の共有にかかる家屋について、甲が乙の作成名義を偽造して、売買による前所有権の移転登記をした場合において、甲の共有持分に関しては、右偽造による登記の無効を生ずることはない。
事件番号: 昭和32(オ)749 / 裁判年月日: 昭和35年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決言渡期日に出頭した当事者が延期告知後に退廷した場合であっても、指定された新期日の告知の効力は当該当事者に及ぶ。また、弁論の公開の有無は、口頭弁論の方式に関する事項として調書によってのみ証明される。 第1 事案の概要:上告人は、昭和31年3月27日の判決言渡期日に出頭したが、言渡延期の告知を受け…