約七六万円の債務の担保として債務者所有の宅地建物を約五箇月以内に一二〇万円をもって買戻しうる旨の特約を附して債権者に譲渡した場合において、物件の価格が優に債権額の四倍を起えても、債権者が債務者の困窮に乗じ、債務者において右期日までに買戻しえないことを見こみ、右物件を終局的に自己の手中におさめることをはかって契約したものでないときは、右物件の譲渡契約は公序良俗に反しない。
宅地建物の譲渡契約が公序良俗に反しないとされた事例。
民法90条
判旨
不動産譲渡契約において、物件の時価が代金額の4倍を超える場合であっても、買戻しの特約が付されているなど諸般の事情を考慮すれば、直ちに公序良俗に反して無効となるわけではない。
問題の所在(論点)
不動産の譲渡価格が時価と比較して著しく低廉である場合(時価の4分の1以下)、当該譲渡契約は民法90条の公序良俗に反し無効となるか。
規範
契約が公序良俗(民法90条)に反し無効となるか否かは、単に給付と反対給付の不均衡(対価の著しい低廉さ)のみならず、契約締結に至る経緯、当事者の意図、および契約に付随する特約の内容等を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
本件において、上告人と相手方との間で不動産譲渡契約が締結された。この契約における物件の時価は、代金額の4倍を超えるものであった。しかし、当該契約には買戻しの特約が付随していた。
あてはめ
本件契約における物件の時価が代金額の4倍を超える事実は認められる。しかし、本件契約には買戻しの特約がなされているという重要な事実が存在する。このような特約の存在は、形式的な対価の不均衡を実質的に補完する事情として評価できる。したがって、価格の開きが大きくとも、契約の全体像に照らせば社会通念上許容し得ない暴利行為等に当たるとまではいえない。
結論
本件不動産譲渡契約は公序良俗に反せず、有効である。
実務上の射程
低額譲渡の有効性が争われる事案において、単なる対価の均衡だけでなく、買戻権の設定といった担保的機能や清算的な合意の有無を重視する判断枠組みとして活用できる。特に債権担保の目的でなされる譲渡(譲渡担保)に近い性質を持つ事案の射程内にある。
事件番号: 昭和34(オ)704 / 裁判年月日: 昭和37年4月17日 / 結論: その他
担保ないし代物弁済予約に供された物件の価額が被担保債権額を、上廻る場合でも債権者が債務者の無思慮、窮迫に乗じて暴利を図つたような事情がないかぎり、直ちに公序良俗に反するとはいえない。