一 「理事と監事の選挙が同時に行われた場合において、同一人が理事と監事の双方に当選の資格を得たときは、そのものの得票数の多い方を役員の当選者と定める」旨の役員選挙規程によって農業協同組合の理事に当選した者の当選が県知事によって取り消された場合において、同人の得票数を審査した結果、同人は前記規程の適用上監事に当選すべき者のでることが判明したとしても、すでに監事選挙の当選決定が確定して動かすべからざる事情にあるときは、右の理由による前示当選取消処分は維持できない。 二 候補者制のない農業協同組合の役員選挙において、投票に記載された被選挙人の氏名に合致する者が二名ある場合においても、当該組合員(有権者)の状態、組合役員選挙の事情、右両名の経歴、役員候補者としての声望、その選挙運動の有無等原判示の事情のもとにおいては、右投票をそのうちの一名にあてられたものと判定することができるものというべきである。
一 農業協同組合の理事に当選した者の当選取消処分が維持できないとされた事例。 二 候補者制のない農業協同組合役員選挙において同姓同名の被選挙人の間においてその氏名のみ記載した投票の帰属を判定した事例。
農業協同組合法96条,農業協同組合法30条
判旨
行政処分がなされた理由とは異なる別の事由を事後的に追加して、当該処分の適法性を維持(理由の差替え)することは、本来の当選結果を回復し得ない等の特段の事情がある場合には許されない。
問題の所在(論点)
取消訴訟において、行政庁が処分時に付記した理由とは異なる「別の法的な理由」を事後的に主張し、処分の適法性を維持すること(理由の差替え)の可否、および当選決定取消処分の効力が争われた。
規範
行政処分の取消訴訟において、処分時に存在した客観的適法事由を事後的に主張して処分の適法性を維持すること(理由の差替え)が可能か検討するに、処分が取り消されることによって本来回復すべき地位の回復が不可能になるような場合には、かかる事後的な理由の追加による処分の維持は許されない。特に、特定の当選決定を取り消すことが、別の選挙結果の修正と不可分一体の関係にある場合、後者の修正が既に不可能な状態にあれば、前者の取消しを別個の事由で正当化することはできない。
事件番号: 昭和43(オ)1143 / 裁判年月日: 昭和44年2月28日 / 結論: 棄却
農業協同組合法四二条の二の規定は、単に同条所定の役職員に対し競業避止義務を課したにとどまり、その就任資格を制限した規定ではない。
重要事実
土地改良組合の理事選挙において、被上告人が当選人と決定された。しかし、選挙管理機関は被上告人の得票数に誤りがあるとして、当選決定の取消処分を行った。上告人(組合側)は訴訟において、被上告人は監事選挙でも当選すべき者であり、選挙規程によれば監事に当選すべき者は理事にはなれないという別個の事由を主張して、取消処分の適法性を維持しようとした。しかし、監事選挙の当選決定は既に確定しており、いまさら修正できない状況にあった。
あてはめ
本件取消処分は当初、得票数を理由になされた。これに対し上告人が後から主張した「監事当選者であるから理事になれない」という事由は、単なる欠格事由ではなく、監事選挙の当選更正と一体不可分のものである。正当な選挙結果を実現するためには、理事当選の取消と同時に、監事当選への更正がなされるべきであるが、既に監事の当選決定は確定し動かせない。このような状況下で、別の選挙規程を適用して理事当選の取消のみを正当化することは、被上告人が本来有すべき地位の回復を不当に妨げるものであり、許されないと解される。また、投票の効力判定において、単に姓のみが記載された投票であっても、候補者の声望や運動状況等の具体的諸事情を考慮して個人を特定できるのであれば、有効な投票として算入すべきである。
結論
当初の処分理由(得票数不足)が認められない以上、事後的に別個の規程違反を理由として処分の適法性を維持することはできず、本件取消処分は違法として取り消されるべきである。
実務上の射程
行政事件訴訟法における「理由の差替え」の限界を示した判例として重要である。処分時に客観的に存在した事由であっても、処分の同一性を超えるような事情の変更や、相手方の法的地位の回復を著しく困難にする場合には、理由の差替えが制限されることを示唆している。答案上は、理由の提示(行訴法14条)の趣旨や、争訟の蒸し返しの防止という観点から論じる際の参考となる。
事件番号: 昭和30(オ)985 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
藤盛喜一なる者が実在していても、諸般の事情から選挙人が同人に投票する意思をもつて記載したものと認められない場合は、「フケモリキ一」、「フヂモリキイツ」と記載された各投票は、候補者藤盛喜一郎に対する有効投票と認めるのが相当である。
事件番号: 昭和33(オ)1119 / 裁判年月日: 昭和34年3月30日 / 結論: 破棄差戻
佐賀県モーターボート競走会会長辞任の意思表示が会長のみを辞任する趣旨のものか理事をも辞任する趣旨のものであるかは、同会役員選任手続に関する慣習や辞任の動機等をも考慮して真意に副うように解釈すべきである。
事件番号: 昭和39(行ツ)30 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
たとえ投票の記載が二人以上の候補者の氏名、氏または名(もしくは通称)に類似するところがあるにしても、なおその記載から、そのうちの一候補者にあてた投票と推認できるものについては、公職選挙法第六八条の二の規定の適用はない。
事件番号: 昭和33(オ)359 / 裁判年月日: 昭和33年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙管理委員会等の公的機関が届出を受理する際、提出された書類に明らかな不備や不審点がある場合には、形式的審査義務を尽くすべきであり、これを怠った受理行為は違法となる。本件では、他人の印鑑を流用した偽造の立候補辞退届を受理した点に、形式的審査義務の懈怠が認められた。 第1 事案の概要:訴外Dは、選挙…