判旨
選挙管理委員会等の公的機関が届出を受理する際、提出された書類に明らかな不備や不審点がある場合には、形式的審査義務を尽くすべきであり、これを怠った受理行為は違法となる。本件では、他人の印鑑を流用した偽造の立候補辞退届を受理した点に、形式的審査義務の懈怠が認められた。
問題の所在(論点)
選挙管理委員会の書記が、同一の印鑑が別人の名義で流用されている等の不審な状況下で立候補辞退届を受理した場合、選挙長が負うべき形式的審査義務に違反するか。
規範
公職選挙法等に基づく立候補辞退届の受理に際し、選挙長(または補助職員)は、届出書が真正なものであるか、形式的要件を具備しているかを確認すべき形式的審査義務を負う。この義務は、特段の事情がない限り、書面の記載事項や押印の状況を照らし合わせ、不自然な点がないかを注意深く確認することを内容とする。
重要事実
訴外Dは、選挙管理委員会書記Eに対し、まず訴外Fの辞退届を代筆させ、「F」と刻した印鑑を押して提出した。その数時間後、Dは再び同役場を訪れ、今度はGの辞退届を代筆させた上、先にFの辞退届で使用したものと全く同一の「F」と刻した印鑑をGの届書に押印して提出し、これを受理させた。しかし、このG名義の辞退届はDによって偽造されたものであった。
あてはめ
本件では、Dが短時間のうちに二度来訪し、異なる候補者(FとG)の辞退届を代筆させている。さらに、Gの辞退届には、直前に提出されたFの辞退届と同一の「F」という姓の印鑑が押印されていた。このような状況は、届出の真正性に重大な疑念を抱かせる客観的事実であり、書記がこれを見過ごして受理したことは、形式的な不備を見逃したものといえる。したがって、選挙長が受理に際して尽くすべき形式的審査義務を忠実に果たさなかったものと評価される。
結論
選挙長が立候補辞退届を受理した判断は、形式的審査義務を尽くさなかった点において違法である。
事件番号: 昭和30(オ)985 / 裁判年月日: 昭和31年2月3日 / 結論: 棄却
藤盛喜一なる者が実在していても、諸般の事情から選挙人が同人に投票する意思をもつて記載したものと認められない場合は、「フケモリキ一」、「フヂモリキイツ」と記載された各投票は、候補者藤盛喜一郎に対する有効投票と認めるのが相当である。
実務上の射程
行政庁の受理行為における形式的審査義務の範囲を画する。届出内容に明らかな矛盾(他人の印鑑の流用等)がある場合に、それを看過して受理することは、実質的審査に踏み込まずとも、形式的審査義務の懈怠として違法性を基礎づけ得る。答案上は、行政手続法上の届出の審査基準の具体化として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)643 / 裁判年月日: 昭和28年5月7日 / 結論: 棄却
一 選挙長は、立候補届受理に際し、その者が公職選挙法第八九条に違反した候補者であるかどうかを審査する義務がない。 二 立候補届出期間経過後候補者を辞した者が公職選挙法第六八条第四項によつて再び候補者となることは違法ではない。
事件番号: 昭和33(オ)1119 / 裁判年月日: 昭和34年3月30日 / 結論: 破棄差戻
佐賀県モーターボート競走会会長辞任の意思表示が会長のみを辞任する趣旨のものか理事をも辞任する趣旨のものであるかは、同会役員選任手続に関する慣習や辞任の動機等をも考慮して真意に副うように解釈すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)859 / 裁判年月日: 昭和28年5月15日 / 結論: その他
一 村長選挙に立候補するため、村議会議員を辞職する旨村役場において村議会書記に口頭をもつて申し出た場合、その申出は辞職申出としての効力を有する。 二 公職選挙法八九条によると公務員は原則として在職のまま公職の候補者となることはできないのであるが、それにもかかわらず公務員が在職のまま立候補の届出をした場合に選挙長はその届…