何時でも貸主の請求に応じ賃貸農地の返還をするなどの定めで農地を耕作させるに至つた場合でも、当時施行の農地調整法第九条第四項により右約定は存しないものとみなされるから、解約申入に民法第六一七条第二項の適用がある。
何時でも返還する特約のある農地賃貸借と民法第六一七条第二項の適用。
民法617条2項,農地調整法9条4項
判旨
農地の賃貸借において、賃借人がいつでも請求に応じ返還する旨の約定は、水稲栽培目的の土地では賃借人に不利なものとして農地調整法(当時)により無効とみなされる。また、当該賃貸借の解約申入れの効力は、民法617条2項に従い、収穫季節後・次期耕作着手前になされない限り認められない。
問題の所在(論点)
1. 「いつでも返還する」旨の約定がある農地賃貸借において、当該約定の効力が認められるか。 2. 農地賃貸借の解約申入れが有効となるための時期・要件、および農地法上の許可の要否。
規範
1. 農地(特に水稲栽培目的)の賃貸借において、「貸主の請求があればいつでも返還する」旨の特約は、賃借人の地位を不安定にするため、賃借人に不利なものとして、農地調整法9条4項(当時)に基づき存しないものとみなされる。 2. 期間の定めのない農地賃貸借の解約申入れについては、民法617条2項を適用し、収穫季節後・次期耕作着手前になされることを要する。
重要事実
上告人(賃貸人)は、訴外Dが戦地から帰還するまでの間、いつでも請求に応じて返還するという約定で、本件農地を賃借人に耕作管理させていたと主張し、農地の返還を求めた。原審は、当該約定の成立は認めつつも、これが一時賃貸借には当たらないと判断した。上告人は、解約申入れが有効であることや、知事の許可が不要な例外事由(農地法3条・36条等)に該当することを主張して上告した。
事件番号: 昭和30(オ)677 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の賃貸借において、旧農地調整法9条2項に基づき「従前の賃貸借と同一の条件」で更新されたとみなされる場合、更新後の条件には賃料前払の特約は含まれない。また、更新拒絶後の事情は信義則違反の判断において必ずしも考慮されるものではない。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)と被上告人(賃借人)は、昭和1…
あてはめ
1. 本件農地は水稲栽培を目的としており、収穫季節が存在する。このような土地において「いつでも返還する」との約定は、賃借人の収穫の機会を奪いかねず、賃借人に著しく不利である。したがって、旧農地調整法9条4項により、かかる約定は存しないものとみなされる。 2. 上記約定が無効である以上、本件は期間の定めのない賃貸借となる。この場合、解約申入れの効力は民法617条2項に従い、収穫季節後かつ次期耕作着手前に限定されるが、本件の申入れは当該時期になされたとは認められない。 3. 農地法20条1項による知事の許可が必要な事案であり、許可を欠く本件解約申入れは法的に有効とはいえない。
結論
本件農地賃貸借における即時返還の約定は無効であり、適切な時期に解約申入れがなされた等の事情もないため、上告人の返還請求は認められない。
実務上の射程
農地法・旧農地調整法の強行法規的性質を示す判例。現代の農地法18条(解約制限)の解釈においても、賃借人に不利な特約の無効判断や、解約申入れの正当事由・時期を検討する際の基礎的な考え方として活用できる。特に「一時使用」と認められない場合の解約の厳格さを論ずる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和47(オ)1028 / 裁判年月日: 昭和48年5月25日 / 結論: 棄却
農地法二〇条二項各号所定の事由は、都道府県知事が同条による許可を与えるについての要件であつて、農地の賃貸借の解約権の発生ないし行使の実体的要件をなすものではない。