農地法二〇条二項各号所定の事由は、都道府県知事が同条による許可を与えるについての要件であつて、農地の賃貸借の解約権の発生ないし行使の実体的要件をなすものではない。
農地の賃貸借の解約と農地法二〇条二項
民法617条,農地法20条1項,農地法20条2項,農地法20条5項
判旨
農地の賃貸借の解約申入れには都道府県知事の許可が必要であるが、許可があれば民法617条により効力を生じ、解約の有効性を主張する者は農地法上の許可事由の存在まで別途主張立証する必要はない。
問題の所在(論点)
農地賃貸借の解約申入れにおいて、農地法20条2項各号所定の許可事由の存在は、民事訴訟における解約の有効要件として賃貸人が主張立証すべき事項にあたるか。
規範
期間の定めのない農地賃貸借の解約申入れが効力を生ずるためには、農地法20条1項・5項に基づく都道府県知事の有効な許可を受けることを要する。同条2項各号所定の許可事由は、知事が許可を与える際の基準として定められたものであり、解約権の発生または行使それ自体の実体的要件をなすものではない。したがって、賃貸借の終了を主張する者は、許可があったことを主張立証すれば足り、許可事由(農地法20条2項各号)の存在を重ねて主張立証する必要はない。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、期間の定めのない本件農地の賃貸借につき、賃借人(上告人ら)に信義に反する行為があるとして、農地法20条2項1号所定の事由に基づき愛媛県知事に解約申入れの許可を申請し、許可を得た。賃貸人はこの許可に基づき解約申入れを行い、賃貸借の終了を主張して土地の明け渡し等を求めた。これに対し賃借人側は、許可事由の実体的な存在等について争い、解約の効力を争った。
事件番号: 昭和37(オ)218 / 裁判年月日: 昭和38年5月10日 / 結論: 棄却
農地賃貸借解除の意思表示は、裁判上なされる場合でも、知事の許可を受けていない以上、農地法第二〇条により無効と解する。
あてはめ
本件では、賃借人が信義に反する行為をしたという農地法20条2項1号所定の事由があるとして知事の許可がなされている。この許可処分は取り消されておらず、当然に無効とすべき事由の存在も主張立証されていない。農地法上の許可制度は公法上の規制であり、私法上の解約権行使の有効性は、この有効な行政処分(許可)の存在によって担保される。したがって、許可が有効に存在する以上、その前提となる具体的個別事由が民事裁判において改めて要件として審理される必要はない。
結論
知事の有効な許可がある以上、民法617条に基づき解約申入れは有効であり、賃貸借は終了する。賃貸人は許可事由の存在まで主張立証する必要はない。
実務上の射程
行政処分の公定力と民事上の要件事実の関係を整理する際に有用である。農地法のような規制的許可が民事上の効力要件となっている場合、許可の存在自体が要件事実となり、その判断基準となった事実(許可事由)は主張立証責任の対象外となる。行政不服申立てや抗告訴訟による許可自体の効力争いがない限り、民事裁判所は許可の前提事実を再審査しないという射程を持つ。
事件番号: 昭和37(オ)820 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
何時でも貸主の請求に応じ賃貸農地の返還をするなどの定めで農地を耕作させるに至つた場合でも、当時施行の農地調整法第九条第四項により右約定は存しないものとみなされるから、解約申入に民法第六一七条第二項の適用がある。