工事の請負契約において、引渡した目的物に未完成部分があつても、その部分が未払代金に比し極めて軽微であるときには、信義則上代金支払期日の未到来を主張することは許されないと解すべきである。
工事の未完成部分が軽微である場合に信義則上請負代金の支払を拒みえないとされた事例。
民法633条
判旨
請負工事に未完成部分がある場合、原則として代金支払時期は到来しないが、未完成部分が極めて僅少であれば、注文者が支払を拒むことは信義則上許されない。ただし、他に不完全な工事部分が存在するなどの事情がある場合には、なお支払拒絶が正当化され得る。
問題の所在(論点)
請負工事に一部分の未完成がある場合、注文者は代金全額の支払を拒めるか。特に、未完成部分が僅少である場合に、支払拒絶が信義則により制限されるための判断枠組みが問題となる。
規範
工事に一部分でも未完成部分があるときは、原則として請負代金の支払時期は到来しない(民法633条参照)。もっとも、未完成部分が未払代金に比して極めて僅少であるときは、信義則(民法1条2項)上、代金支払期日の未到来を主張して支払を拒否することは許されない。ただし、未完成部分が僅少であっても、他に不完全な工事部分(瑕疵)が存在し、これらを総合的にしんしゃくすべき場合には、支払拒絶が直ちに信義則に反するとはいえない。
重要事実
請負人である上告人が、注文者である被上告人に対し、請負工事の残代金の支払を求めた事案。本件の工事には未完成部分が存在していたが、上告人はその程度が極めて僅少であると主張し、代金支払を拒む被上告人の対応が信義則に反すると争った。一方で、本件工事には未完成部分のほかに「不完全な工事部分(瑕疵)」も存在していた。
あてはめ
本件において、確かに未完成部分自体は未払代金に比して僅少といえる余地がある。しかし、本件では単なる未完成にとどまらず、他にも「不完全な工事部分」が存在していた。これらの不完全な箇所の存在および程度を併せて総合的に考慮すれば、注文者が残代金全額の支払を拒絶したとしても、それを信義則に反するとまでいうことはできない。
結論
工事に未完成部分および不完全な部分がある以上、注文者が代金支払を拒絶することは信義則に反せず、代金支払請求は認められない。
実務上の射程
仕事の完成(民法632条)と瑕疵(契約不適合)の区別を前提としつつ、未完成が極めて些末な場合の「仕事の完成」の認定における信義則の機能を示している。答案上は、代金支払債務の履行遅滞の成否を論じる際、未完成部分が些末である場合には信義則による修正を検討し、その際、瑕疵の有無など他の事情も併せて総合考慮すべきという文脈で使用する。
事件番号: 平成5(オ)1924 / 裁判年月日: 平成9年2月14日 / 結論: 棄却
請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
事件番号: 昭和59(オ)543 / 裁判年月日: 昭和60年5月17日 / 結論: その他
請負契約が請負人の責に帰すべき事由により中途で終了した場合において、残工事の施工に要した費用として、注文者が請負人に賠償を請求することができるのは、右費用のうち、未施工部分に相当する請負代金額を超える部分に限られる。