請負契約において仕事が完成しない間に注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法五三六条二項により、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことにより得た利益を注文者に償還すべきである。
注文者の責に帰すべき事由により仕事の完成が不能となつた場合における請負人の報酬請求権と利得償還義務
民法536条2項,民法632条
判旨
請負契約において、注文者の責に帰すべき事由により仕事の完成が不能となった場合、請負人は民法536条2項により、自己の債務を免れるとともに注文者に対し請負代金全額を請求できる。ただし、自己の債務を免れたことにより得た利益については、注文者に償還する義務を負う。
問題の所在(論点)
請負契約の仕事が完成前に履行不能となった場合、それが「注文者の責に帰すべき事由」によるものであるとき、請負人は代金全額を請求できるか。また、その際の請負人の義務はどうなるか。
規範
仕事が完成しない間に注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となった場合には、請負人は民法536条2項(債権者の責に帰すべき事由による履行不能)に基づき、注文者に対して請負代金全額を請求することができる。ただし、請負人は自己の債務を免れたことによる利益(工事未了部分の材料費や労務費等の支出を免れた分)を注文者に償還すべき義務を負う。また、注文者自身が直接の契約当事者でない場合であっても、注文者が行うべき協力義務を代行することを容認されていた等の事情があれば、その不履行は契約上の注文者の責に帰すべき事由に当たる。
重要事実
元請人Dは、所有者である上告人から家屋の冷暖房工事を請け負い、これを被上告人に下請けさせた。上告人はDが被上告人に対して負う代金債務を連帯保証した。被上告人が工事の大部分を完了し、残るは機器の据付のみとなった際、上告人が地下室の防水工事を理由に据付を拒否し、その後も防水工事を行わず拒み続けたため、工事完成は社会取引通念上履行不能となった。Dと被上告人の契約上、防水工事は本来Dが行うべきものであったが、Dが上告人にこれを行わせることが容認されていた。被上告人はDに対し、請負代金の支払いを求めた。
あてはめ
本件では、ボイラー等の据付不能は上告人の防水工事不履行に起因するが、Dとの関係では防水工事はDが負うべき義務であり、Dが上告人にこれを行わせることを容認していたにすぎない。したがって、上告人の拒絶による履行不能は、下請契約の注文者であるDの「責に帰すべき事由」によるものと評価される。これにより、被上告人は民法536条2項に基づき、Dに対して請負代金全額の請求権を有する。なお、被上告人が債務を免れたことによる利益の償還(利益の控除)について、注文者側からの主張立証がなされていない本件では、代金全額の請求が認められる。Dの連帯保証人である上告人も、この代金債務について責任を免れない。
結論
注文者の責に帰すべき事由により仕事の完成が不能となった以上、請負人は代金全額を請求できる。連帯保証人である上告人は、Dが負うべき代金支払債務について保証責任を負う。
実務上の射程
民法536条2項を請負契約に適用した重要判例である。答案上では、仕事完成前の履行不能が誰の帰責事由かを確定させた上で、代金請求権の存否を論じる際に活用する。特に、請負人が免れた費用(中間利息や材料費等)を「利益」として控除すべき点に言及することが、実務的・答案上の加点ポイントとなる。
事件番号: 昭和32(オ)223 / 裁判年月日: 昭和33年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請負契約において、工事の早期完成を目的として定められた竣工期限厳守の合意は、期限内に完成した場合には謝礼金を支払い、遅延した場合には一日ごとに一定額を支払うという特約として有効に成立する。 第1 事案の概要:被上告人はダム建設により居宅を失い移住したが、移住先で飲食店を営むため急遽家屋を建築する必…
事件番号: 昭和52(オ)1306 / 裁判年月日: 昭和53年9月21日 / 結論: 棄却
請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とは、右両債権額が異なる場合であつても相殺することが許される。