裁判上の和解において建物買取請求権を留保した形跡がないからといつて、和解の趣旨から見て借地法第四条第二項による買取請求権も同法第一〇条による買取請求権も当然に放棄されたと判断することには、審理不尽、理由不備の違法がある。
建物買取請求権放棄の判断に審理不尽理由不備の違法があるとされた事例。
借地法4条2項,借地法10条,民訴法395条6号
判旨
建物買取請求権は借地権者の重要な権利であるから、裁判上の和解において当該権利を留保しなかったという事実のみから、直ちに権利の放棄や消滅を認めることはできない。
問題の所在(論点)
裁判上の和解において建物買取請求権を留保しなかったという事実のみをもって、同権利を放棄したものと解釈できるか。
規範
建物買取請求権(旧借地法4条2項、10条)は借地権者を保護するための強行規定的な性格を有する権利である。したがって、裁判上の和解において同権利を行使しない旨の合意があったと解するためには、単に権利を留保しなかったという消極的事実だけでは足りず、権利を放棄したと認めるに足りる明確な事情が必要である。
重要事実
賃借人から借地権と建物を譲り受けた上告人に対し、賃貸人(被上告人)が承諾を与えず建物収去土地明渡訴訟を提起した。訴訟中、上告人が建物を収去して土地を明け渡すこと、被上告人は明渡期限まで土地を賃貸することを骨子とする和解が成立した。その際、上告人が建物買取請求権を留保する旨の条項は盛り込まれなかった。原審は、留保がない以上、上告人は買取請求権を放棄したと判断した。
事件番号: 昭和38(オ)1398 / 裁判年月日: 昭和39年9月8日 / 結論: 棄却
借地法第一〇条による買取請求権者を行使できるのは、建物所有を目的とする土地賃借権者が借地上に所有する建物等土地の附属物件をその賃借人から賃借権とともに譲り受けた者およびその者よりさらにその譲渡を受けた者に限られる。
あてはめ
本件和解の趣旨が、①借地権譲渡を承諾し賃貸借の承継を認めるものであれば、期間満了に伴う買取請求権(4条2項)が当然に認められるべきであり、②譲渡を承諾せず明渡を猶予する一時使用目的(借地法除外)であっても、譲渡承諾がない以上は譲受人としての買取請求権(10条)が問題となる。いずれにせよ、買取請求権を留保しなかったという一事のみで権利を否定することは法律行為の解釈として誤りであり、放棄を認めるには「いっそう明確な事情」を要する。
結論
和解において買取請求権を留保しなかったことのみを理由として、同権利の放棄を認めることはできない。原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
和解条項の解釈において、黙示の権利放棄を認めるためのハードルを高く設定した判例である。答案上は、建物買取請求権の行使を制限する合意の有無が争点となる場面で、本判例を引用して「明確な事情」の必要性を論じ、形式的な和解文言のみならず、和解に至る経緯や当事者の真意を詳細に検討する際の規範として活用する。
事件番号: 平成4(オ)991 / 裁判年月日: 平成7年12月15日 / 結論: 棄却
土地の賃借人が賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後に建物買取請求権を行使した場合、その行使の効果は、建物収去土地明渡請求を認容する確定判決に対する請求異議の訴えにおける異議の事由となる。
事件番号: 昭和34(オ)288 / 裁判年月日: 昭和35年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地権の承継が認められない事実関係の下では、建物買取請求権を行使することはできない。また、特段の事情がない限り、土地明渡請求が権利濫用や信義則違反に当たるとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本件土地上の建物を所有し、被上告人(原告)に対して建物買取請求権を主張した。しかし、原審におい…