売買契約に基づく当事者双方の債務の履行が完了しない間に、売主が実力を行使して売渡物件を取り戻した場合には、特段の事情の認められないかぎり、引渡債務の履行の効果は消滅し、右債務は未だ履行されない状態に復したものと解するのを相当とする。
売買契約に基づく当事者双方の債務の履行が完了しない間に売主が実力を行使して売渡物件を取り戻した場合と引渡債務の履行の効果。
民法493条
判旨
売買契約に基づく双方の債務履行が完了する前に、売主が実力で物件を取り戻した場合、特段の事情がない限り引渡債務の履行効果は消滅し、債務不履行の問題を生じ得る。
問題の所在(論点)
売買契約に基づく引渡しが一旦完了した後、双方の債務履行が完了する前に売主が目的物の占有を実力で奪い返した場合、引渡債務は未履行の状態に戻り、債務不履行責任を負うか。
規範
売買契約の当事者双方の債務履行が完了した後の実力行使は、原則として占有侵奪の問題に留まる。しかし、双方の債務履行が完了する前に、売主が実力を行使して売渡物件を取り戻した場合には、特段の事情が認められない限り、引渡債務の履行の効果は消滅し、当該債務は未だ履行されない状態に復するものと解するのが相当である。
重要事実
売主である被上告人は、買主側の訴外Eに対し本件建物を引き渡し、Eが湯屋営業を開始していた。その後、売買契約に基づく双方の債務履行が完了していない段階で、被上告人はEの本件建物に対する占有を実力で奪い、自ら湯屋営業を開始した。上告人は、この行為が本件売買契約における建物引渡債務の不履行にあたると主張して、その責任を追及した。
あてはめ
被上告人は一旦建物を引き渡したものの、売買契約に基づく双方の債務履行が完了しない間に実力で占有を侵奪した。この場合、規範に照らせば引渡債務は未履行の状態に復したといえる。もっとも、本件では原審が認定した諸事情(具体的な内容は判決文からは不明)に照らすと、被上告人が債務を履行しないことにつき「正当な理由」が認められるため、結果として債務不履行の責を問うことはできない。
結論
被上告人の実力行使により引渡債務は未履行状態に戻ったといえるが、履行しないことにつき正当な理由があるため、債務不履行責任は成立しない。
実務上の射程
契約の清算が終わる前に売主が目的物を回収した場合に、物権的請求権や占有回収の訴えだけでなく、契約上の債務不履行責任(追完請求や解除、損害賠償)を構成できる可能性を示す。ただし、履行遅滞等の帰責事由や正当理由の有無は別途検討が必要となる。
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