特定物の実現売買には債務不履行の生ずる余地がない。
特定物の現実売買と債務不履行。
民法415条,民法555条
判旨
特定物の現実売買においては、売買の対象となった特定の物を現状のまま引き渡せば足りるため、売主に債務不履行責任が生ずる余地はない。
問題の所在(論点)
特定物の現実売買において、売主に債務不履行責任(民法415条)が発生する余地があるか。
規範
特定物の現実売買において、売主は引渡し時点における現状のまま当該物件を引渡す義務を負うにとどまる。したがって、引渡された物件に物理的な不備等があったとしても、それが特定された目的物そのものである限り、売主に債務不履行(履行遅滞、不完全履行等)の責任は生じない。
重要事実
上告人(買主)と被上告人(売主)との間で、特定物の売買契約が締結され、現実の引渡しが行われた。上告人は、当該売買物件に問題があるとして、被上告人に対し債務不履行に基づく責任を追及した。原審は、本件が特定物の現実売買であることを理由に、売主に債務不履行の余地はないと判断したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件売買は、当事者が特定の物を対象としてその場で取引を行う「特定物の現実売買」に該当すると認められる。特定物売買においては、その特定の物自体を給付することが債務の内容となる。したがって、売主が当該物件を現実に引き渡した以上、債務の本旨に従った履行がなされたといえ、債務不履行が成立する前提を欠く。上告人が主張する瑕疵等の問題は、瑕疵担保責任(旧民法570条)の成否に関わるものであり、債務不履行の成否とは峻別されるべきである。
結論
本件は特定物の現実売買であるから、売主に債務不履行の生ずる余地はなく、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
特定物売買における「現状有姿」での引渡義務の限界を示す。瑕疵担保責任(現行法の契約不適合責任)との法条競合を考える際、まず債務不履行の成否を特定物ドクトリンの観点から否定する文脈で使用される。ただし、現行民法下では「契約の本旨」の解釈により結論が異なる可能性がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和36(オ)87 / 裁判年月日: 昭和38年8月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の債務不履行により解除となった際、債務整理の必要上、物件を不利な条件で早急に転売せざるを得なかったという特別事情がある場合、当該転売価格と当初の売買価格との差額を損害として賠償請求でき、その算定に際して物件の時価を確定する必要はない。 第1 事案の概要:買主(上告人)の代金支払債務不履行に…