債権者の代理人と称する者を債権準占有者とする弁済の主張をも含むと見られる抗弁につき単に表見代理の成否のみを判断した点に審理不尽理由不備があるとされた事例。
判旨
債権者の代理人と称する者に対する弁済がなされた場合、当該主張には表見代理のみならず、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)の主張が含まれ得るとし、その判断を尽くすべきとした。
問題の所在(論点)
債権者の代理人と称する者への弁済を主張する際、明示的に民法478条の適用を援用していなくとも、裁判所は債権の準占有者に対する弁済としての成否を審理判断すべきか。
規範
債権者の代理人と称して受領権限があるかのように振る舞う者は、民法478条(債権の準占有者に対する弁済)にいう「債権の準占有者」に当たり得る。したがって、表見代理の主張がなされている場合であっても、その主張の文脈によっては、準占有者に対する弁済としての有効性を検討する必要がある。
重要事実
上告人は、債権者の代理人と称する訴外Dに対して弁済を行ったと主張し、仮定抗弁を提出した。原審は、この主張を単なる表見代理の主張としてのみ捉え、Dが債権の準占有者に該当し、その弁済が有効となる可能性について検討を行わなかった。
あてはめ
上告人が提出した「債権者の代理人と称する訴外Dへの弁済」という事実は、単に代理権の有無(表見代理)の問題に留まるものではない。受領権限があるかのような外観を有する者への弁済である以上、そこには債権の準占有者に対する弁済の主張が含まれていると見る余地がある。それにもかかわらず、原審がこの点について何ら判断を示さなかったことは、審理不尽または理由不備の違法があると言わざるを得ない。
結論
原判決を破棄し、債権の準占有者に対する弁済の成否を含めて審理させるため、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
本判決は、表見代理の主張と民法478条の主張が実戦的には重なり合うことが多いことを示唆している。答案上、代理人と称する者への弁済が問題となる事案では、表見代理(110条等)だけでなく、予備的に478条の適用の有無についても言及すべきである。特に、代理権の存在を信じるにつき「過失」がある場合でも、478条の「善意無過失」の要件を検討する形で論述を構成する際の根拠となり得る。
事件番号: 昭和30(オ)977 / 裁判年月日: 昭和32年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売却に関する代理権を有する者が、その権限を越えて連帯保証契約を締結した場合であっても、民法110条の表見代理が成立し得る。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dは、上告人から所有不動産を売却するための契約締結等に関する代理権を授与されていた。しかし、Dはこの権限の範囲を越えて、上告人を代理して…