小切手を割引により取得した者は、小切手振出の原因関係たる売買契約の取消につき、民法第九六条第三項の第三者に該当しない。
小切手の割引取得者は民法第九六条第三項の第三者に該当するか。
民法96条
判旨
売買代金の支払のために振り出された小切手を割り引いて取得した者は、当該売買契約が詐欺により取り消された場合において、民法96条3項の「第三者」には該当しない。また、利得償還請求権の発生要件である利得の存在については、請求者が立証責任を負う。
問題の所在(論点)
1. 売買代金の支払のために振り出された小切手の譲受人は、原因関係たる売買契約が詐欺取消しされた場合、民法96条3項の「第三者」に該当するか。2. 利得償還請求権における「利得の存在」の立証責任はどちらが負うか。
規範
1. 民法96条3項にいう「第三者」とは、詐欺による意思表示の取消し前において、その取消しの対象となる意思表示によって生じた法律関係に基づき、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいう。2. 小切手法上の利得償還請求権の発生要件である「利得の存在」に関する立証責任は、当該権利を主張する請求者側にある。
重要事実
上告人は、ディーゼル機関の買受代金の支払のために振り出された本件小切手を、割引(手形割引に準ずる行為)によって取得した。その後、原因関係であるディーゼル機関の売買契約が詐欺を理由に執り消された。上告人は、自身が民法96条3項の「第三者」として保護されるべきであると主張するとともに、小切手上の権利消滅に伴う利得償還請求を行った。
あてはめ
1. 小切手の譲受人は、無因性のある小切手上の権利を取得するにすぎず、原因関係である売買契約から発生した法律関係そのものについて新たに利害関係を取得したものではない。したがって、売買契約の詐欺取消しとの関係では、独立した法律上の利害関係を有する「第三者」とは評価できない。2. 利得償還請求権は、証券上の権利が消滅したことにより債務者が受けた実質的な利益を還元させる制度である。その発生要件たる「利得の存在」は、権利を主張する上告人(請求者)において立証すべき事柄であり、本件ではその存在が認められないと解される。
結論
1. 小切手の譲受人は民法96条3項の第三者に該当しない。2. 利得の存在が立証されない以上、利得償還請求は認められない。
実務上の射程
手形・小切手の無因性に基づき、原因関係の取消しから直接保護される「第三者」の範囲を限定した。また、利得償還請求権の立証責任が請求者側にあることを明示しており、実務上の立証指針となる。もっとも、小切手自体が善意取得(小切手法21条等)されれば別途保護の余地があるため、96条3項の適用の有無とは分けて考える必要がある。
事件番号: 昭和30(オ)432 / 裁判年月日: 昭和34年6月9日 / 結論: 破棄差戻
呈示期間の徒過に基く手続の欠缺により小切手上の権利を失つた者が、失権当時、小切手を所持せず、もしくは除権判決を得ていなかつた場合であつても、その間その小切手上の権利を取得した者がなく、実質上の権利を失つていなかつたときは、振出人等に利得のある限り、利得償還請求権を取得しないものとはいえない。