銀行の自己宛小切手が窃取された場合、呈示期間経過後取得した右小切手の所持人に対する小切手金支払は、たとい該所持人を小切手金債権の準占有者とみなしてなされたとしても、同銀行が右事情を知悉しているかぎり無効である。
銀行の自己宛小切手が窃取された場合に呈示期間経過後取得した右小切手の所持人に対する支払が無効とされた事例。
民法467条,民法478条,小切手法21条,小切手法32条2項,小切手法35条
判旨
呈示期間経過後の失効小切手の譲受人は小切手上の権利者とはなり得ず、振出人が当該譲受人に対し盗難の事実や期限後譲渡の経緯を知りながら支払った場合、債権の準占有者に対する弁済としての善意無過失は認められない。したがって、当該支払は無効であり、振出人に利得が認められる限り、正当な所持人は利得償還請求権を行使できる。
問題の所在(論点)
呈示期間経過後に失効した小切手の譲受人に対する支払が、債権の準占有者に対する弁済として有効となり、振出人の利得を否定する根拠となるか。また、その際の善意無過失の判断基準が問題となる。
規範
債権の準占有者に対する弁済(民法478条)が有効となるためには、弁済者が善意かつ無過失であることを要する。呈示期間経過によって権利が消滅した失効小切手の譲受人は、いかなる意味においても小切手上の権利者とは認められない。振出人が、所持人が失効小切手の譲受人であること等の事情を知りながら支払を行った場合には、少なくとも過失があるものとして弁済は無効となる。
重要事実
銀行(被上告人)は自己宛小切手を振り出し、D・Eを経て上告人に譲渡されたが、翌日盗難に遭った。盗難された小切手は呈示期間内に呈示されず権利が消滅したが、その後、犯人から第三者を経由してIに譲渡された。Iが呈示期間経過後に銀行へ支払を求めた際、銀行は盗難届を受理しており、捜査機関の取調べを通じてIが「窃取された失効小切手の期限後譲受人」であることを了知していた。しかし、銀行は期限後呈示でも支払う取引上の慣習に従い、Iに小切手金を支払った。これに対し、上告人が小切手法72条に基づき利得償還請求を求めた事案である。
あてはめ
本件小切手は呈示期間内に呈示されず権利が消滅しており、その後の譲受人であるIは正当な権利者ではない。被上告銀行は、捜査機関の取調べを通じて、Iが窃取された小切手を期限後に譲り受けた者であるという事情を十分に了知していた。このような事情を知りながら支払った以上、たとえ期限後呈示に応じる慣習があったとしても、当該支払について善意無過失であったとはいえず、債権の準占有者に対する弁済として有効とは認められない。有効な支払がなされていない以上、依然として銀行に利得が存する可能性がある。
結論
銀行の支払は無効であり、原審が銀行の善意無過失を認めて利得償還請求を排斥した判断には違法がある。利得の有無を再審理させるため、本件を差し戻す。
実務上の射程
小切手の利得償還請求(小切手法72条)において、振出人が「支払により利得が消滅した」と抗弁する場合の支払の有効性を画定する。特に期限後呈示という形式的不備がある場合や、盗難等の事情を銀行が把握している場合の善意無過失の判断が厳格になされるべきことを示している。
事件番号: 昭和37(オ)1404 / 裁判年月日: 昭和38年6月18日 / 結論: 棄却
小切手を割引により取得した者は、小切手振出の原因関係たる売買契約の取消につき、民法第九六条第三項の第三者に該当しない。