売買契約において代金額がドルをもつて表示されていても、単なる日本国内売買であり一ドルを三六〇円と換算して支払うべき約定であつたと認められる合倍には、民法第四〇三条を適用すべきでない。
外貨をもつて代金額を表示した売買契約に民法第四〇三条の適用がないとされた事例
民法403条
判旨
売買代金が米貨で表示されていても、それが単に価格算定の基準にすぎない場合は、民法403条(外国通貨による債権)は適用されない。また、契約数量の一部について製作中止と引取猶予の合意がある場合、既完成分のみの引渡し提供をもって債務の本旨に従った履行の提供といえる。
問題の所在(論点)
1. 代金が米貨表示されている場合に、民法403条に基づき債務者が履行期の円換算額で弁済できるか。 2. 契約数量(1500樽)の一部(993樽)のみの引取りを求めたことが、債務の本旨に従った履行の提供(民法493条)といえるか。
規範
1. 民法403条の適用範囲について:債権額が外国通貨で指定された場合にのみ同条が適用される。単に価格算定の基準として外国通貨が用いられたにすぎない場合は、同条の適用はない。 2. 弁済の提供(債務の本旨):契約成立後に、当事者の合意によって履行すべき数量が実質的に変更(一部解約等)された場合、その変更後の内容に応じた履行の提供をすれば、債務の本旨に従った提供として有効である。
重要事実
売主である被上告人と買主である上告人との間で釘1500樽の売買契約(内地売買)が締結された。代金は米ドルで表示されていたが、実質的には価格算定の基準にすぎなかった。その後、上告人が信用状を入手できず製作中止を申し入れたため、被上告人は製作を中断。既に完成していた993樽について被上告人が引取りを求めたが、上告人は転売まで猶予を求めた。被上告人は、この993樽分の代金支払を求めて提訴した。
あてはめ
1. 本件の米貨表示は単に価格を定める基準にすぎず、特段の事情がない限り民法403条にいう「外国の通貨をもって債権額を指定した」ものとは認められない。したがって、円貨による固定的な代金請求が認められる。 2. 上告人からの製作中止申入れと被上告人の承諾により、未完成の507樽分は将来に向かって合意解約されたものと解される。そのため、既に完成した993樽について引取りを要求したことは、現在の契約内容に合致しており、不完全履行には当たらない。これは債務の本旨に従った弁済の提供といえる。
結論
1. 本件売買契約に民法403条の適用はなく、原判決の代金算出は正当である。 2. 既完成分のみの提供は有効な提供であり、上告人は代金支払義務を免れない。上告棄却。
実務上の射程
契約書上の通貨表示が、単なる「計算尺度」か「支払通貨の指定」かを区別する実務上の指針となる。また、履行途中での合意による数量変更がある場合に、一部提供が「債務の本旨」に叶うとする判断手法は、契約変更の認定とセットで答案上活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1175 / 裁判年月日: 昭和43年3月1日 / 結論: 破棄差戻
(省略)