売買契約書上一筆の山林を表示しているが、契約締結当時の諸事情に照らして観察すれば、売買は右山林を構成する地盤の一部を指定し、これを譲渡するという趣旨の契約にほかならないときは、所有権移転の効力は右山林部分についてのみ生ずる。
売買契約書上一筆の山林を表示しているが売買の目的物は当該山林の一部であると認められた事例。
民法1編4章1節,民法555条
判旨
一筆の土地の表示により売買契約を締結した場合でも、契約当時の諸事情に照らし、特定の土地部分のみを譲渡する趣旨と認められる特段の事情があるときは、その部分についてのみ所有権移転の効力が生じる。この理は、当事者が残地の存在を認識していなかったとしても、契約の目的物に含まれていない以上、残地の所有権は移転しない。
問題の所在(論点)
一筆の土地として表示された売買契約において、当事者が残地の存在を知らずに一部のみを譲渡する趣旨で契約した場合、表示された土地全体の所有権が移転するか。また、その登記を信頼した転得者が残地の権利を取得できるか。
規範
一筆の土地を表示して売買契約を締結した場合、特段の事情がない限り、その一筆の土地全部を売買する意思であったと解するのが契約解釈の通則である。しかし、契約締結当時の諸事情に照らし、売買契約が一筆の土地を構成する地盤の一部を指定して譲渡する趣旨であり、契約上の地番表示は単に当該部分の同一性を示すために用いられたにすぎないと解される「特段の事情」がある場合には、所有権移転の効力は当該部分のみに生じる。この判断は、当事者が残地の存在を知らなかった場合であっても同様である。
重要事実
Dは父Eを介して、F社との間で土地の売買契約を締結した。この際、売買契約書上は「bc番地」という一筆の山林を表示していた。しかし、実際にはbc番地の一部である「a」という区画のみが取引の対象として意識されており、DおよびFは、bc番地の中に「d」という係争地(残地)が含まれていることを知らないまま契約を締結した。その後、F社からbc番地を買い受け、移転登記を経由した上告人が、d部分についても所有権を主張して争った。
あてはめ
本件では、DとFは「a」部分が「bc番地」の一部にすぎず、同山林内に「d」が含まれることを知らないまま契約している。これは、契約の真意が「a」という特定の地盤部分の譲渡に限定されており、地番の表示は単に目的物を特定するための記号として用いられたにすぎないことを示唆する。したがって、山林の一部のみを譲渡する趣旨の「特段の事情」が認められ、売買の目的物に含まれなかった「d」について所有権移転の効力は生じない。また、登記には公信力がないため、前主Fが「d」の所有権を取得していない以上、上告人が「bc番地」の登記を信頼して買い受けたとしても「d」の所有権を取得することはできない。
結論
売買契約において特定の部分のみを譲渡する趣旨であるという特段の事情がある以上、所有権移転の効力は当該部分に限定され、目的外の土地(d)の所有権は移転しない。上告人の請求は認められない。
実務上の射程
契約解釈における表示と内心的効果意思の乖離が問題となる場面で活用できる。特に、公図と実測が異なる山林売買等において、地番表示よりも「現況の特定部分」を重視する判断枠組みとして重要である。また、不動産登記の公信力の否定についても改めて確認している。
事件番号: 昭和31(オ)934 / 裁判年月日: 昭和32年10月8日 / 結論: 棄却
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