一 重傷後死亡した者の得べかりし利益の賠償請求権は、その相続人において承継取得する。 二 甲の死後その相続人である乙において従来甲が取締役社長をしていた会社の社長に新たに就任し甲同様の社長報酬を受給するに至つても、右受給は甲の死亡と相当因果関係のある利益とはいえない。
一 重傷後死亡した者の得べかりし利益の賠償請求権の相続 二 相続人が被相続人の死亡のあとを受け継いで取締役社長に就任した場合の報酬受給と被相続人の死亡との相当因果関係
民法709条,民法896条,民法722条
判旨
不法行為により即死、または負傷後短期間で死亡した被害者は、逸失利益の損害賠償請求権を傷害の瞬時に取得し、これが相続人に継承される。また、被害者の死亡後に相続人が新たに得た報酬は、特段の事情がない限り損益相殺の対象とはならない。
問題の所在(論点)
1. 被害者が不法行為により死亡した場合、逸失利益の賠償請求権を取得し、相続人がこれを承継しうるか。2. 被害者の死亡後に相続人が就職等により得た報酬は、損益相殺として控除すべきか。
規範
不法行為による被害者が傷害を負い、その結果死亡した場合、被害者は傷害の瞬時に、通常生存し得べき期間に得べかりし財産上の利益(逸失利益)の賠償請求権を取得する。この権利は、致死までの時間の長短を問わず、相続の対象となる。また、損益相殺として控除すべき利益は、加害行為と相当因果関係があるものに限られ、被害者の死亡後に相続人が自身の労務提供等の対価として取得した利益は、原則としてこれに当たらない。
重要事実
被害者Fは、上告人の被用者Dの運転ミスに起因する交通事故により重傷を負い、約16時間後に死亡した。Fの相続人である被上告人Bらは、不法行為に基づき、Fが生きていれば得られたであろう逸失利益等の損害賠償を請求した。これに対し上告人側は、Fが即死に近い状態であったため損害賠償請求権が発生しないこと、およびFの死後に相続人BがFの経営していた会社の社長に就任して得た報酬を損益相殺として控除すべきことを主張した。
あてはめ
1. Fは事故により重傷を負い、約16時間後に死亡しているが、傷害を負った瞬間に逸失利益の賠償請求権を取得したと解するのが相当であり、相続人Bらがこれを承継することは肯定される。 2. 損益相殺について、BがFの死後にG株式会社の社長に選任され報酬を得ている事実は、B自身の労務提供の対価である。これはFの傷害および死亡と相当因果関係のある利益とはいえず、損害額から控除すべき対象にはあたらない。
結論
被害者は死亡までの時間の短長にかかわらず逸失利益の賠償請求権を取得し、相続人が承継する。また、相続人の就業報酬は損益相殺の対象とならないため、上告を棄却する。
実務上の射程
被害者が即死した場合であっても、理論上「負傷と死亡との間の時間的間隙」を認め、逸失利益の相続を認める確立された判例(大審院判例の変更)である。損益相殺の範囲については、相続人の属性による利益ではなく、不法行為と直接の因果関係を要することを明確にしているため、死亡後の扶養料節約などの論点と併せて答案で活用すべきである。
事件番号: 昭和45(オ)780 / 裁判年月日: 昭和46年3月18日 / 結論: 棄却
省略 (反対意見がある。)