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抗弁について判断遺脱があるとされた事例。
判旨
当事者が主張した予備的な信義則違反等の抗弁について、裁判所が何ら判断を示さないまま請求を認容することは、判決に影響を及ぼす判断遺脱および理由不備の違法がある。
問題の所在(論点)
当事者が主張した信義則違反や特約の存在などの予備的抗弁に対し、裁判所が判断を示さずに本訴請求を認容することは、判決の違法事由(判断遺脱・理由不備)となるか。
規範
当事者が提出した主張(特に請求の成立や責任の有無を左右する予備的抗弁)に対しては、裁判所は審理を尽くし、判決理由において判断を示さなければならない。これに反して判断を欠いたまま結論を出すことは、民事訴訟法上の判断遺脱および理由不備(同法407条1項、旧395条1項6号参照)に該当する。
重要事実
被上告人(原告)が上告人(被告)に対し、紙器原料の売買代金請求訴訟を提起した。上告人は、①自らは買主ではなく使用人に過ぎないとの主位的主張に加え、予備的に、②経営欠損を負担しない旨の合意がある、③被上告人の経営管理下での欠損を上告人に負担させるのは信義則・条理に反する、④被上告人の経営管理義務違反がある、と主張した。原審は、これら予備的主張(②〜④)について一切判断を示さず、被上告人の請求を認容した。
あてはめ
上告人は原審において、仮に自身が営業主体であるとしても、被上告人との間で欠損負担を免除する合意があったことや、被上告人による経営管理の実態に照らして代金請求が信義則に反することを詳細に主張していた。これらの主張は、代金支払債務の存否や責任の範囲を左右し得る重要な防御方法である。しかし、原審はこれらの主張を無視して請求を認容しており、事実認定および法律判断の過程において不可欠な判断を漏らしたものといえる。
結論
原判決には判断遺脱および理由不備の違法があるため、破棄を免れない。さらに審理を尽くさせるため、本件を原審裁判所に差し戻す。
実務上の射程
信義則等の抽象的な規範に基づく主張であっても、具体的妥当性を図るための抗弁として提出された以上、裁判所はそれを無視できないことを示す。答案上は、理由不備(民訴法312条2項6号)や判断遺脱を論じる際の根拠として活用できる。特に実体法上の請求が認められそうな場面で、信義則等の主張が等疎かにされている場合の破棄事由の定型を示すものである。
事件番号: 昭和37(オ)1238 / 裁判年月日: 昭和38年11月5日 / 結論: 破棄差戻
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