判旨
選挙事務の手続に違法がある場合でも、投票箱の保管状況等の諸事情を総合考慮し、当該違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞がないと認められるときは、選挙の効力は否定されない。
問題の所在(論点)
選挙事務の手続(開票事務の中止、投票箱の封印・旋錠等)に違法がある場合において、公職選挙法上の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」がないと判断されるための要件および判断枠組みが問題となった。
規範
公職選挙法上の選挙無効訴訟において、選挙事務手続に違法が認められる場合であっても、直ちに選挙が無効となるわけではない。当該違法が「選挙の結果に異動を及ぼす虞(おそれ)」があるか否かを、具体的な諸事実(事務執行の継続性、物件の保管状況等)に基づき判断し、その虞がないと認められる場合には、選挙の結果は維持される。
重要事実
ある選挙において、選挙長が開票事務を一時中止した。その際、投票箱の封印および旋錠が不十分な状態であったという手続上の不備(違法)が存在した。上告人らは、これらの事務執行の違法を理由に選挙の無効を主張して訴えを提起した。
あてはめ
本件では、開票事務の中止や投票箱の封印・旋錠の不備という違法な事態が生じている。しかし、原審が認定した投票箱の保管状況等の詳細な事実によれば、外部からの不当な介入や票の差し替えが行われる蓋然性は否定される。したがって、手続上の違法は存在するものの、それが具体的・客観的に当選人の決定(選挙の結果)を左右するほどの影響を及ぼしたとはいえず、「選挙の結果に異動を及ぼす虞」は認められないと評価される。
結論
選挙事務に違法があっても、選挙の結果に異動を及ぼす虞がないと認められる本件においては、選挙を無効とすべき理由はない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和36(オ)560 / 裁判年月日: 昭和36年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票箱の一部に施錠不能な破損があっても、内蓋の施錠や封印、保管状況等から不正混入の虞が否定される限り、選挙結果に影響を及ぼす事由には当たらない。また、同一筆跡と疑われる投票の存在のみでは、直ちに組織的な不正投票の事実を認定することはできない。 第1 事案の概要:村長選挙等の効力が争われた事案。投票…
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」に関する判断基準を示している。手続的違法の存在=即無効ではなく、その違法が実質的に投票の正当性や集計の結果を歪めた可能性があるかを事実認定に基づき判断する実務慣行を支持するものである。答案上では、違法の存在を認定した後の「無効原因」の検討段階で使用する。
事件番号: 昭和32(オ)708 / 裁判年月日: 昭和32年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙手続に法令違反がある場合であっても、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないときには、当該選挙は無効とはならない。投票箱の空虚確認漏れ等の手続上の瑕疵は、実質的に公正が担保されていれば選挙無効の原因を構成しない。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、複数の手続上の問題が指摘された。具体…
事件番号: 昭和36(オ)200 / 裁判年月日: 昭和36年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙事務従事者による不正行為や開票録表示数の不真正は、それが選挙の管理執行に関する規定違反にあたり、選挙の結果に影響を及ぼす蓋然性がある場合には、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とする理由になり得る。 第1 事案の概要:本件選挙において、投票所及び開票所の選挙事務従事者が不正行為を行った。…
事件番号: 昭和41(行ツ)59 / 裁判年月日: 昭和41年12月6日 / 結論: 棄却
一 不在者投票手続における投票の立会人は、当該市町村の選挙人名簿に登録された者一名のみで足りる。 二 不在者投票管理者が不在者投票を直ちにその選挙人の属する投票区の投票管理者に送致しなかつたとしても、それが投票所閉鎖時刻までに送致されている以上、選挙の効力に影響しない。 三 選挙人名簿に多数の無資格者が誤載されていたと…
事件番号: 昭和36(オ)265 / 裁判年月日: 昭和36年7月20日 / 結論: 棄却
選挙長は、立候補届出または候補者推薦届出の受理に際し、文書につき形式的な審査をしなければならないが、候補者が被選挙権を有するか否か等実質的な審査をする権限を有しない。