判旨
当事者が主張していない代理または表見代理の事実について、裁判所が釈明権を行使して主張を促すべき義務はない。
問題の所在(論点)
当事者が訴訟において代理や表見代理の事実を主張していない場合に、裁判所にその主張を促すべき釈明義務(民事訴訟法149条参照)が認められるか。
規範
民事訴訟における弁論主義の原則の下では、主要事実は当事者の責任において主張されるべきであり、裁判所が当事者の主張していない独立の攻撃防御方法(代理や表見代理等)について、釈明権を行使して示唆や主張の勧告を行う義務はない。
重要事実
上告人(買主)は、被上告人(売主)に対し土地を買い受けたと主張したが、一審および原審において代理人による契約締結(有権代理)や表見代理の成立については一切主張していなかった。上告人は、裁判所がこれらの点について釈明権を行使しなかったことが違法であるとして上告した。
あてはめ
上告人は原審において自ら本件土地を買い受けたと主張するのみで、代理関係については全く触れていなかった。このような状況において、裁判所が当事者の意図しない攻撃防御方法を掘り起こして釈明を行うことは、弁論主義の枠組みを超えるものである。したがって、裁判所が代理等の主張を促さなかったとしても、釈明義務違反の違法があるとは解されない。
結論
裁判所に釈明義務違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
弁論主義が支配する民事訴訟において、釈明権の行使はあくまで主張の矛盾や不明瞭を正す範囲に留まり、全く主張されていない新たな構成(本件では代理)を導入するまでの義務を課すものではないことを確認する際に用いる。
事件番号: 昭和33(オ)962 / 裁判年月日: 昭和35年8月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、当事者が主張していない事実や法的構成について、特定の主張を促すべき釈明義務を当然に負うものではない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決が認定した事実とは異なる事実を前提として、原裁判所が当事者に対して特定の主張を促す義務(釈明義務)を負うべきであったと主張して上告した。判決文からは具体…
事件番号: 昭和32(オ)917 / 裁判年月日: 昭和35年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権のない者によって行われた土地の譲渡について、裁判所は代理権の欠如を理由に直ちに請求を排斥でき、譲渡の意思表示の有無を判断したり追認の有無を釈明したりする義務はない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dが被上告人の代理人として本件各土地を上告人に譲渡したと主張した。しかし、Dが管理権や代理権を…
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…
事件番号: 昭和32(オ)619 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条にいう「正当の理由」とは、第三者(相手方)において代理人に権限があると信ずるにつき過失がないことを意味し、過失がある場合には表見代理は成立しない。 第1 事案の概要:上告人(相手方)は、代理権を欠く者との間で取引を行ったが、原審において、当該代理人に権限があると信ずるにつき上告人に過失…