判旨
債務免除(民法519条)は、履行不能の事実から論理的に当然に導かれるものではなく、意思表示の有無を個別に判断すべきである。また、口頭による債務免除の主張については、証拠に基づきその合意の存否を認定すべきである。
問題の所在(論点)
履行不能の事実があれば論理的必然として債務免除が認められるか。また、口頭による債務免除の主張に対し、証拠に基づきその成否を判断した原審の判断に違法があるか(民法519条の解釈適用)。
規範
債務免除(民法519条)は、債権者が債務者に対して債務を免除する旨の意思表示をすることによって成立する単独行為または契約である。履行不能という客観的事実が存在することと、債務免除という意思表示がなされることとの間には、論理的必然の関係は認められない。したがって、免除の成否は、具体的証拠に基づき、債権者に免除の意思があったか否かによって判断されるべきである。
重要事実
上告人は、債務の履行不能の事実がある以上、そこから債務免除の事実が論理的に導かれると主張した。また、上告人は口頭による債務免除の契約が成立したと主張して抗弁を提出したが、原審はそのような口頭による合意の存在を認めるに足りる証拠がないとして、これを排斥した。
あてはめ
履行不能は債務が履行できなくなるという事態にすぎず、債権者がその権利を放棄する意思(債務免除)を当然に含意するものではない。本件において、上告人の主張する履行不能の事実と債務免除との間に論理的必然性は認められない(規範のあてはめ)。また、口頭による債務免除の契約についても、証拠上その事実が認められない以上、民法519条の要件を満たす意思表示があったとはいえない。
結論
履行不能から債務免除は当然に導かれず、証拠上口頭の免除が認められない以上、債務免除の効力は発生しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
債務免除の意思表示の有無をめぐる事実認定の問題であり、履行不能という客観的事情のみから免除を擬制することはできないという当たり前の法理を確認したものである。実務上は、免除の意思表示が書面によらず口頭でなされたと主張する場合、その立証責任は免除を主張する側(債務者側)にあり、厳格な証拠調べが必要となることを示唆している。
事件番号: 昭和34(オ)568 / 裁判年月日: 昭和36年8月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権の取立委任を受けた代理人に対し、債務者が「代理の件証認する」と記載した書面を交付したとしても、直ちに当該代理人への支払義務や原債権者への支払禁止義務を負担する合意が成立したとは認められない。 第1 事案の概要:上告人は、D建設に対するセメント代金債権を担保するため、D建設が被上告人(町)に対し…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…