一、「振出を認める」ということは、約束手形の振出を構成する事実行為を認める趣旨に帰着 する。 二、別個に謝礼金の授受がなされているからといつて、交換手形として振り出した事実の認定をすることは経験則に違反しない。 三、懲憑事実の主張に対する判断を明示的に判示する必要はない。
一、「振出を認める」旨の弁論は、事実の自白か 二、謝礼金授受のある場合に交換手形振出の認定をすることは経験則に反するか 三、懲憑事実の主張に対する判断の判示
判旨
手形を「振出した」という事実は、法律上の効果を伴う法律行為ではあるものの、その中核は振出行為を構成する事実行為を認める趣旨に帰着するため、裁判上の自白が成立する。
問題の所在(論点)
「手形を振出した」旨の認否が、裁判上の自白の対象となる「事実」に該当し、拘束力を有するか。法律行為の承認が事実行為の承認として自白の対象になり得るかが問題となる。
規範
裁判上の自白(民訴法179条)の対象となる事実は、原則として主要事実に限られ、法律行為それ自体を認める旨の陳述は法律的評価にすぎず、自白となり得ないのが原則である。しかし、特定の法律行為を行ったことを認める旨の陳述であっても、その実質が当該法律行為を構成する具体的な事実行為の存在を認める趣旨であると解される場合には、裁判上の自白として拘束力を有する。
重要事実
上告人は、本件約束手形を自ら振出した事実を第一審において認める旨の陳述をしたが、後にこれを取り消し、当該振出行為を否認した。上告人は、手形の振出は「法律行為」であり「事実行為」ではないため、その自白には拘束力が生じず、自由に取り消し得ると主張して、自白の成立を認めた原判決の違法を訴えて上告した。
あてはめ
本件において、「振出を認める」という陳述は、単に法律的効果を認めるだけでなく、本件約束手形の振出を構成する具体的な事実行為(手形への署名・捺印、交付等)を認める趣旨に帰着すると評価される。このように、表現上は法律行為の承認であっても、その内容が事実行為の肯認を意味する以上、事案の核心をなす主要事実についての自白として取り扱うのが相当である。したがって、一度なされた振出の自白には拘束力が認められ、上告人が自由に取り消すことは許されない。
結論
手形振出の事実に係る自白は、振出行為を構成する事実行為を認める趣旨に帰着するため、裁判上の自白として拘束力を有する。
実務上の射程
「法律上の主張」と「事実の主張」が混在する場面で、法律行為の成立を認める陳述をいかに評価するかという問題に対し、事実行為への還元可能性を基準に自白の成立を認める柔軟な枠組みを示す。答案上は、法律行為(意思表示等)の認否がなされた場合に、その実質が主要事実(事実行為)の承認であるとして、179条の自白の成立を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)416 / 裁判年月日: 昭和33年3月7日 / 結論: 破棄差戻
刑事上罰すべき他人の行為(詐欺)によつて裁判上の自白がなされた場合、右自白者が、これを理由としてその無効、取消を主張した以上、裁判上の自白の効力は認むべきではない。