判旨
建築請負契約において、建築資材の購入や「きざみ込み」等の準備行為をしただけでは、特段の事情がない限り、債務の本旨に従った履行の提供があったとは認められない。
問題の所在(論点)
建築請負契約において、資材の調達や加工といった「履行の準備行為」を行ったことが、直ちに民法上の「債務の本旨に従った履行」として認められるか。
規範
債務者が債務の履行について「債務の本旨に従った履行」をしたといえるためには、原則として、契約の目的である給付行為そのものが完了しているか、あるいは債務者の側で必要な準備を完了して相手方の受領を催告する等の行為が必要である。単なる履行の準備段階にある行為は、これに含まれない。
重要事実
建築請負契約の請負人(上告人)が、建築のために16万円相当の建築資材を買い入れ、その切り込み(きざみ込み)を行い、大工手間賃6万円を支出した。請負人は、これらの準備行為をもって「何もしなかったわけではない」と主張し、債務の本旨に従った履行の提供があったとして損害賠償等を求めた。
あてはめ
上告人が主張する事実は、建築資材を入手し、その加工(きざみ込み)を行ったという点に留まる。これらはあくまで建物を建築して引き渡すという請負債務を履行するための準備行為にすぎない。建物の完成・引き渡しに向けた現実の提供や、受領を促すのに足りる程度の完了に至っていない以上、これらの事実のみでは債務の本旨に従った履行がなされたとは評価できない。したがって、これらに関する証拠調べを行わなかった原審の判断に違法はない。
結論
建築準備行為をしただけでは債務の本旨に従った履行とは認められず、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
契約上の義務の不履行や解除の可否が争点となる場面において、どの程度の行為をもって「履行」または「履行の提供」があったと評価すべきかの基準となる。準備段階の支出をもって「履行」と強弁する主張を排斥する際に有用である。
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