判旨
適法な転貸借において、転借人が転貸借契約の約定支払期日に転借賃料を支払った場合は、たとえ賃貸人の賃料請求より先であっても民法613条1項(現2項)にいう「前払」には該当しない。
問題の所在(論点)
転貸借の適法性を認める判決が確定する前に、転借人が転貸借契約の約定支払期日に基づいて支払った賃料は、民法613条1項(現2項)にいう「借賃の前払」に該当し、賃貸人に対抗できないか。
規範
転貸借の効力は、当事者の合意と賃貸人の承諾によって生じるものであり、適法性を確認する判決の確定を待って生じるものではない。また、転借人が転貸借契約に基づく約定の支払期日に転借賃料を支払ったのであれば、それは債務の内容に従った正当な履行であり、民法613条1項(現2項)に規定される、賃貸人に対抗できない「借賃の前払」には当たらない。
重要事実
賃貸人(上告人)がDに家屋を賃貸していたところ、Dは昭和30年7月、賃貸人の承諾を得て家屋の一部を被上告人(転借人)に転貸した。転貸借契約において賃料は月額3000円、毎月末払いと約定されていた。転借人は、この約定に従って毎月の賃料を転貸人に支払っていた。その後、賃貸人と転借人との間で転貸借の適法性が争われ、別訴の確定判決により当該転貸借は適法であると確認されたが、賃貸人は「判決確定前の支払は前払であり、自らへの支払義務を免れない」と主張して本件訴訟を提起した。
あてはめ
本件転貸借は賃貸人の承諾を得て適法に成立しており、その効力は判決の確定を待たずして合意時(または承諾時)に発生している。転借人は、適法に成立した転貸借契約上の約定支払期日に基づき、その債務を履行している。このような約定に基づく期日通りの支払は、賃貸人への対抗を制限される「前払」(履行期前の繰上支払)とは性質を異にするものである。したがって、判決確定前であっても約定通りの支払である以上、同条の「前払」には該当しない。
結論
転借人が約定の支払期日に賃料を支払った場合は「前払」に当たらず、賃貸人は転借人に対して二重に賃料を請求することはできない。
実務上の射程
民法613条2項(旧1項後段)の趣旨が、賃貸人の代位権的権利を確保するために転借人の繰上支払を制限する点にあることを踏まえ、約定通りの支払は保護されるべきとの基準を示す。答案上では、賃貸人が転借人に直接請求を行う際、転借人が「既に転貸人に支払った」と反論する場合の再抗弁(前払の主張)を排斥する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…