賃貸家屋が他に譲渡されいまだ対抗要件を具備していない場合においても、賃借人が後にこの事実を認めて、新家主に対し、遡つて賃料を皮払つたときは、右賃料の弁済は、その弁済時以前の分も含めて、すべて有効と解すべきである。
賃貸家屋が他に譲渡された場合と賃借人の賃料の弁済の効力
民法605条,民法478条
判旨
賃貸物件の所有権移転に伴い賃貸人の地位が譲受人に承継された場合、譲受人が所有権移転登記を経由していなくとも、賃借人がその地位承継を認めて賃料を支払ったときは、その支払は有効な弁済となる。
問題の所在(論点)
不動産賃貸借において、所有権移転登記を経由していない建物の譲受人に対し、賃借人が賃貸人たる地位の承継を認めて行った賃料支払は、有効な弁済となるか(民法605条の2第1項、対抗要件の要否)。
規範
家屋の所有権が譲渡された場合、賃貸人たる地位も譲受人に移転し、譲受人は賃料請求権を取得する。譲受人が所有権移転登記を経由していないときは、譲受人側から承継を対抗することはできないが、賃借人が承継の事実を認めて賃料を支払うことは妨げられない。この場合、賃借人の支払は正当な債権者に対する弁済として有効であり、譲渡人は賃借人に対し賃料の支払を請求し得ない。
重要事実
建物所有者(賃貸人)から補助参加人(譲受人)へ、代物弁済予約完結に基づき建物の所有権が移転した。しかし、補助参加人は所有権移転登記を経由していなかった。その後、賃借人(被上告人)は補助参加人が賃貸人であることを認め、滞納していた期間分を含む賃料を補助参加人に対して支払った。一方、元の所有者から賃料債権の譲渡を受けたとする上告人が、被上告人に対し賃料の支払を求めて提訴した。
事件番号: 昭和44(オ)190 / 裁判年月日: 昭和44年6月3日 / 結論: 棄却
賃貸中の建物につき売買契約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が経由された後に、仮登記義務者が賃料債権を第三者に譲渡しても、右賃料債権譲渡は、右仮登記に基づく所有権移転の本登記が経由されたことによつて、その効力を否定されるものではない。
あてはめ
本件建物の所有権は補助参加人に移転しており、実体法上の賃料債権者は補助参加人である。被上告人はこの承継事実を認め、補助参加人に対して賃料を支払っている。譲渡人は所有権を失った以上、もはや賃料債権を取得し得る地位にはない。したがって、被上告人による支払は、真実の債権者に対する有効な弁済(民法473条)であり、これによって賃料債権は消滅したといえる。
結論
建物の譲受人が登記を経由していなくとも、賃借人がその地位承継を認めて支払った賃料弁済は有効である。したがって、二重譲渡等の議論を待たず、賃料債権は消滅する。
実務上の射程
賃貸人の地位の承継において、譲受人が賃借人に賃料を請求するには登記が必要とする判例(最判昭49・3・19)との対比で重要となる。本判決は、賃借人が自発的に譲受人の地位を認めて支払う場合には、登記がなくとも弁済が有効になることを示しており、賃借人保護の観点から登記を「免除」する機能を持つ。
事件番号: 昭和43(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 棄却
賃貸人が借家法七条により額を定めて賃料値上の請求をしたときは、その範囲内において客観的に値上を相当とする額につき将来に向つて値上の効力を生ずるが、たといその後において値上の事由が発生しても、新たに値上の請求をしない限り、さきにした請求の範囲内においてさらに値上の効力を生ずるものではなく、このことは、値上賃料支払請求訴訟…