一 消極、 二 約束手形の振出人欄に「大阪府泉南郡a町b」「D金属製作所」「D団治」なる三個の記名印が並んで押捺されてあり、右三個の記名印影にまたがつて「D金属製作所之印」なる角形の朱印が押捺されていても、D団治の振出人としての署名にかわる記名捺印があるとは認められない。
一 約束手形の振出人欄の住所氏名印および角印部分のみが真正に成立している場合に手形全体の成立が民訴法第三二六条により推定されるかどうかの判断 二 約束手形の振出人欄における住所氏名などの記名印をもつて署名にかわる記名捺印があるとはされなかつた事例
民訴法326条,手形法1編1章,手形法82条
判旨
手形上の記名に重ねて角印が押捺されているのみで、各記名の名下に個別の押印がない場合は、手形法上の記名捺印として認められない。また、印影の真正を否認する場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を推定することはできない。
問題の所在(論点)
手形上の複数の記名(住所、氏名等)に対し、それらを跨ぐ形で角印が一つ押されている状態が、手形法上の「記名捺印」として認められるか。また、記名は認めるが印影の真正を否認する場合に、文書全体の真正な成立を認めることができるか。
規範
手形法上の「記名捺印」(署名に代わるもの)として有効であるためには、各記名に対応する形で押印がなされることを要する。記名に重なる形で印章が押捺されていても、それが単なる角印の類であり、個別の記名に対応する捺印としての体裁を欠く場合には、有効な記名捺印とは認められない。
重要事実
約束手形の振出人欄には、住所・事業所名・代表者名の3つのゴム印(記名)が並んで押捺されていた。その3つの記名にまたがる形で「D金属製作所之印」という角印(朱印)が1つ押捺されていたが、代表者名の名下に個別の印影は存在しなかった。受取人側は有効な手形と主張したが、振出人とされた側は、氏名印の自捺および印影の真正を否認した。
あてはめ
本件手形の振出人欄を確認すると、3つの記名(住所、屋号、氏名)に対し、これらすべてに重なる形で一つの角印が押されているに過ぎない。この態様は、各記名者の意思を個別に確認し得る「記名捺印」の体裁を到底備えているとはいえない。また、被上告人は住所・氏名等のゴム印の存在は認めているものの、印影自体が自分のものであることは否認しており、錯誤による自白の撤回も認められる。したがって、民訴法の規定に基づき文書の真正な成立を認めることはできない。
結論
本件手形は、適法な記名捺印を欠くため、振出人による署名に代わるものとは認められない。また、立証責任の分配に照らし、文書の真正な成立も認められない。
実務上の射程
手形行為の厳格な要式性を確認した判例である。複数の記名に対し角印を重ねる慣習がある場合でも、手形法上の効力を認めるには個別の捺印が必要となる可能性が高い。実務上は、印影の真正が争われた際の民事訴訟法上の形式的証拠力の判断枠組み(二段の推定との関連)としても参照される。
事件番号: 昭和27(オ)708 / 裁判年月日: 昭和29年5月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形を振り出したことにより既存の債務が消滅(更改)したと認められるためには、当事者間に旧債務を消滅させ新債務を成立させる合意が必要であり、単なる手形の振出しのみでは更改の事実は認められない。 第1 事案の概要:上告人(被告)は、本件タイヤの代金債務について、手形を振り出したことによって当該債務は更…