無断転貸により賃貸借契約の解除権が発生した場合に、賃貸人が無断転貸の事実を知りながら異議を述べずに賃借人から賃料を受け取つた一事のみによつては、当然には右解除権が消滅するものとはいえない。
無断転貸による賃貸借契約の解除権を行使する前の賃料の受領と解除権の消長。
民法541条,民法612条
判旨
賃貸人が賃借人による無断転貸の事実を知りながら、異議を述べずに賃料を受領したという一事のみでは、転貸に対する黙示の承諾があったとは認められない。
問題の所在(論点)
賃貸人が無断転貸の事実を知りながら異議を留めずに賃料を受領し続けた場合、民法612条1項の「承諾」が黙示になされたといえるか。
規範
無断転貸(民法612条1項)により賃貸借契約の解除権(同条2項)が発生した場合において、解除権を行使するか否か、また何時行使するかは賃貸人の任意である。したがって、賃貸人が無断転貸の事実を知りながら異議を述べずに賃料を受領したという事情のみから、直ちに転貸についての黙示の承諾があったと解することはできない。
重要事実
上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)に無断で本件家屋を第三者に転貸した。被上告人はこの無断転貸の事実を認識していた可能性があるが、特段の異議を述べることなく継続して上告人から賃料を受領していた。その後、被上告人が無断転貸を理由に賃貸借契約の解除を主張したため、上告人は賃料受領の事実を根拠として黙示の承諾があったと抗弁した。
あてはめ
本件において、上告人は被上告人が転貸の事実を知りながら異議なく家賃を受領した事実は主張しているが、それ以上に黙示の承諾があったと推認させるに足りる具体的な事実を主張・立証していない。解除権の行使時期は賃貸人の自由な判断に委ねられているため、単なる賃料の受領のみでは、賃貸人が解除権を放棄し、転貸を容認したとまでは評価できない。
結論
賃貸人による黙示の承諾があったとはいえず、無断転貸を理由とする解除権の行使は有効である。
実務上の射程
無断譲渡・転貸の抗弁として「黙示の承諾」を主張する際のハードルの高さを示す。単なる賃料受領以外の加重事実(長期間の放置や転貸人との直接交渉等)がない限り、黙示の承諾を認めるのは困難であることを踏まえて答案を構成すべきである。
事件番号: 昭和28(オ)632 / 裁判年月日: 昭和29年6月8日 / 結論: 棄却
控訴審における請求の拡張は、たとえ請求の基礎に変更があつても、相手方が異議なく応訴した場合は、これを許すべきである。