一 農地買収処分の無効確認訴訟は、処分庁たる県知事を被告として提起することができる。 二 農地買収処分の相手方が買収令書の受領を拒否しても、右処分を了知しうべき状態におかれたものとして、右処分の効力を認めることができる。
一 処分の無効確認訴訟における処分庁の被告適格。 二 農地買収令書の受領拒否と買収処分の効力。
行政事件訴訟特例法1条,行政事件訴訟特例法3条,自作農創設特別措置法9条
判旨
行政処分の効力発生時期につき、令書等の受領が拒絶された場合であっても、当該書類が了知し得る状態に置かれたといえる具体的事情があれば、処分の効力は発生し得る。
問題の所在(論点)
行政処分の相手方が令書の受領を拒否した場合において、当該処分は「了知し得る状態に置かれた」ものとして効力を生じるか。また、裁判所はその点について判断を示すべきか。
規範
行政処分の効力は、処分が相手方に到達し、その内容を了知し得る状態に置かれた時に発生する。相手方が正当な理由なく受領を拒否したとしても、その置かれた状況から客観的に内容を了知できる状態(了知可能状態)に至ったと認められる場合には、処分の効力発生を妨げない。
重要事実
県知事(上告人)は、農地法に基づき被上告人に対し農地買収処分を行うため買収令書を発行し、村農地委員会を通じて交付しようとした。しかし、被上告人は当該買収に不服があるとして、その都度令書の受領を拒否した。その後、令書に代わる公告が行われたが、原審は公告の適法性のみを検討し、令書交付の試みによる効力発生の成否について判断を示さなかった。
事件番号: 昭和36(オ)1189 / 裁判年月日: 昭和38年5月21日 / 結論: 棄却
自創法第三条の規定による農地の買収において、買収令書は作成されたが交付されなかつたという場合には、行政処分としては成立しても、効力を生ずるに由ない無効の処分と解するのが相当である。
あてはめ
上告人は、買収令書が有効に被上告人に交付された旨を主張している。事実経過として、被上告人が買収を不服として意図的に受領を拒否していた実態がある。このような具体的事情に照らせば、令書の受領拒否があったとしても、物理的に提示されるなどして内容を了知し得る状態に置かれたものとして、買収処分の効力発生を認め得る余地がある。したがって、裁判所は交付による効力発生の有無という争点について判断を示す必要があった。
結論
買収令書の受領拒絶があっても、具体的事情により了知し得る状態に置かれたと認められる場合は処分の効力が生じ得る。この判断を遺脱した原判決には違法があるため、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
行政処分の効力発生要件である「到達」の意義を明確にする判例である。受領拒否という妨害行為があっても、客観的な了知可能性があれば効力を認めるという実務上の通説的見解(到達主義)を支える。答案上は、通知の不達や受領拒絶が問題となる場面で、実質的な了知可能性の有無を検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和40(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 破棄差戻
農地の買収処分無効確認の訴と所有権移転登記抹消登記手続請求の訴との併合訴訟において、前者の訴につき、第一審が取得時効の完成を認めて訴を不適法として却下したのに対し、原審が時効の完成を否定し第一審判決を取り消して、請求を認容したのは、民訴法第三八八条の必要的差戻しの規定に違背するものというべきであるが、後者の訴についての…
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。
事件番号: 昭和33(オ)91 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消事由にすぎない瑕疵がある場合であっても、その瑕疵が処分を当然無効ならしめるほどの重大かつ明白なものでない限り、当該処分は当然には無効とならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地買収処分に以下の無効原因があると主張した。(1)県係員の虚偽指示に基づく買収計画、(2)異議却下時の農地委…
事件番号: 昭和30(オ)292 / 裁判年月日: 昭和32年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分が無効であったとしても、その後に当該土地を贈与された者が農地法上の許可を得ていない場合、所有権を取得し得ないため、買収処分の無効確認及び登記抹消等を求める訴えの利益(当事者適格)を欠く。 第1 事案の概要:福島県知事は、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地を補助参加人の所有地として…