運送取扱人から運送品の引渡を受けた者が売買の履行としてこれを真荷受人に引渡した事実があつても、運送取扱契約の本旨に従つた荷受人に対する運送品引渡の履行があつたとはいわれない。
運送取扱契約の本旨に従つた運送品引渡がなされなかつたと判定された事例。
商法560条
判旨
運送取扱人が、荷送人との運送取扱契約に基づかず、正当な権限のない者に運送品を引き渡した場合は、たとえその者が真の荷受人であったとしても、契約上の履行とは認められず、受託者の義務違反を構成する。
問題の所在(論点)
運送取扱人が、荷送人との契約に基づかずに運送品を特定の者に引き渡した場合に、それが契約上の適法な履行(義務の消滅)として認められるか、あるいは債務不履行を構成するか。
規範
運送取扱人は、荷送人との間に成立した運送取扱契約の債務の本旨に従い、適切な相手方に対して運送品を引き渡す義務を負う。契約に基づかない引渡しは、たとえ事実上の荷受人に対するものであっても、当該契約の履行とは認められない。
重要事実
荷送人(被上告人)と運送取扱人(上告人)との間で、煮干いわしの運送取扱契約が締結された。上告人は、本件運送品をD商業協同組合に引き渡したが、この引渡しは、被上告人との間で成立した運送取扱契約の履行として行われたものではなかった。上告人は、送り状に基づく契約の存在や、Dを正当な荷受人とする引渡しの適法性を主張して上告した。
あてはめ
本件において、運送品である煮干いわしがDに引き渡された事実は認められる。しかし、この引渡しは被上告人と上告人の間に成立した運送取扱契約の履行としてなされたものではないと認定される。したがって、上告人が主張する「真荷受人に対する適法な引渡し」という前提は成立せず、契約に基づかない独自の判断による引渡しは、受託者としての義務を果たしたものとはいえない。
結論
上告人による引渡しは、本件運送取扱契約の履行として認められないため、上告人の責任を認めた原判決は正当であり、本件上告は棄却される。
実務上の射程
運送取扱人の責任において、引渡しの相手方が「契約上の荷受人」として正当な権限を有しているかの確認が重要であることを示す。答案上では、商法上の運送取扱人の責任(善管注意義務や引渡義務)を論じる際、形式的な受領者への引渡しがあったとしても、それが契約の趣旨に反する場合には履行として認められないことを指摘する際に活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)171 / 裁判年月日: 昭和37年11月9日 / 結論: 棄却
貨物引換証の発行のない場合において、運送品が到達地に達した後は、運送取扱人は、運送取扱委託者との合意がなくても、荷受人から荷受権限の移転を受けた者に対し運送品を引き渡すことによつて、債務の本旨に従つた履行ができる。