運送人甲の使用人乙が、かつて荷受人を天草郡a町丙(設立準備中の有限会社)とする物品運送に従事した際、丙の設立事務所に目的物を運送したことがあるにもかかわらず、約一ケ月後に締結された右と同様の荷受人の表示がある運送契約において、運送品を丁の指示に従い同人の居宅に配達してこれを滅失させたときは、前記設立事務所にはこれを示すに足りる設備もなく、丁は当時丙の設立準備委員の一人であり、かつ乙は配達をするにあたり丁から同人名義の甲に対する虚偽の注文書写を呈示されたなどの事情があつても、甲に運送契約上の債務不履行につき過失がないとはいえない。
運送人の債務不履行につき過失がないとはいえないとされた事例。
商法577条
判旨
運送人が、荷受人ではない第三者からの依頼に応じて、契約上の目的地とは異なる場所に物品を配送し滅失させた場合、過去の取引経過等から荷受人の所在地を了知し得た状況下では、特段の事情がない限り、運送人の債務不履行責任(商法577条)を免れない。
問題の所在(論点)
運送人が、荷受人の表示が不明確であるとして、第三者の依頼に基づき契約外の場所に配送して物品を滅失させた場合、商法577条(現行商法575条参照)に基づく損害賠償責任において、運送人の過失(帰責事由)が否定されるか。
規範
物品運送契約において、運送人が債務の本旨に従った履行をしたといえるためには、契約上の荷受人の所在地へ配送しなければならない。運送人が荷受人を確知し得ない場合には、供託又は競売(商法585条)等の手続を採るべきであり、これらの手段を講じず安易に第三者の指図に従って別場所に配送した場合は、債務不履行についての過失(帰責事由)が否定されない。
重要事実
荷送人Xは、設立準備中の会社Dを荷受人とし、その設立事務所を目的地とする物品運送を運送人Yに委託した。Yの使用人Fは、Dの設立準備委員の一人であるHから、虚偽の注文書を示されてH宅への配送を依頼され、これに応じて物品を引渡したが、その後物品は滅失した。なお、Yは本件の1ヶ月前にも同様の依頼を受けており、その際はDの別の準備委員からの連絡に基づき、正しくDの設立事務所へ配送した実績があった。
あてはめ
本件では、Dの事務所に看板等がなかったとしても、Yは1ヶ月前の取引においてDの設立事務所の所在地を認識し、配送に成功していた事実がある。したがって、Fは本件荷受人の表示から配送先を了知し得たといえる。また、仮に荷受人が確知できない場合であっても、運送人には供託等の適法な権能が与えられている。それにもかかわらず、これらを確認せず、Hの提示した虚偽の書面を信じて漫然と別場所に配送したYには、債務不履行上の過失が認められるべきである。
結論
Yは債務の本旨に従った履行をしておらず、過失も否定できないため、特段の事情がない限り損害賠償責任を免れない。
実務上の射程
運送人の善管注意義務の具体化として機能する。荷受人の表示の不備を理由に過失相殺や帰責事由の否定を主張する場面において、過去の取引実績や商法上の供託制度の存否を考慮要素とする際の基準となる。
事件番号: 昭和32(オ)211 / 裁判年月日: 昭和34年3月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】運送取扱人は、運送品の滅失、損傷又は延着について、自ら又はその使用人が運送の受取、引渡し、保管、運送人の選択その他運送に関して注意を怠らなかったことを証明しなければ、損害賠償責任を免れることができない。 第1 事案の概要:上告人(運送取扱人)が介入した運送において、何らかの損害(詳細な事故態様は判…