判旨
不動産に関する留置権が成立するためには、被担保債権がその不動産に関して生じたものであること(牽連性)が必要であり、かつ、その債権額が証拠によって確定されなければならない。
問題の所在(論点)
入院費用や葬儀費用等の債権が、不動産に対して「その物に関して生じた債権」といえるか。また、留置権の抗弁を認めるために債権額の確定が必要か。
規範
1. 民法295条1項の留置権が成立するためには、債権が「その物に関して生じた」ものであること(牽連性)を要する。2. 裁判上の行使において留置権の抗弁が認められるためには、権利者が行使すべき債権の具体的な額を確定するに足りる証拠を提示しなければならない。
重要事実
上告人は、本件不動産の所有者である被上告人から明渡請求を受けた際、第三者(DおよびE)の入院費用や葬儀費用等を自ら負担したと主張し、これらの債権を被担保債権として、本件不動産について留置権を主張した。しかし、これらの費用の具体的な金額を確定するに足りる証拠は提出されていなかった。
あてはめ
まず、入院費用や葬儀費用等は個人の身上に関する費用であり、不動産それ自体の保存や改良のために支出された費用ではないため、「その物に関して生じた債権」とは認められない。次に、上告人が提出した証拠資料では、主張する費用の具体的な額を認定することができない。留置権は一定の債権を保全するための権利である以上、その額が確定できない場合には、抗弁として排斥されるのが相当である。
結論
本件債権には牽連性が認められず、また債権額の立証もないため、留置権の抗弁は認められない。
実務上の射程
留置権の牽連性の判断(物的関連性の否定例)および、裁判上の抗弁としての要件事実(債権額の立証責任)に関する実務上の指針となる。答案上は、建物と無関係な債権を被担保債権として主張する相手方への反論として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)532 / 裁判年月日: 昭和34年9月3日 / 結論: 棄却
不動産を売渡担保に供した者は、担保権者が約に反して担保不動産を他に譲渡したことにより担保権者に対して取得した担保物返還義務不履行による損害賠償債権をもつて、右譲受人からの転々譲渡により右不動産の所有権を取得した者の明渡請求に対し、留置権を主張することは許されない。
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【結論(判旨の要点)】賃料増額請求における適正賃料の算定において、借地権自体の価格を直接の要素として算入することはできないが、建物の立地条件等に基づく場所的利益を考慮することは妨げられない。また、増額請求の当否は諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に…
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【結論(判旨の要点)】不動産質権の留置的効力は、登記がなければ第三者に対抗することができない。また、被担保債権が不動産に関して生じたものでない限り、留置権の成立も認められない。 第1 事案の概要:上告人は、相手方に対して貸金債権を有しており、本件不動産を占有していた。上告人は、不動産質権に基づき不動産を留置する権能、あ…