前後二つの準備書面の双方に記載された事項が相まつてはじめて一箇の主張としての意味をもつものであるが、或いは後の準備書面に記載された事項が当然前の準備書面に記載された事項を前提としている場合は格別、後の準備書面に基づいて口頭弁論期日の陳述がなされたからといつて、前の準備書面に基づく陳述がないことをもつて釈明義務を尽さない違法があるとはいえない。
釈明義務の存否。
民訴法127条
判旨
物の引渡請求訴訟において、被告の留置権の抗弁が認められる場合には、請求を棄却するのではなく、債務の弁済と引換えに物の引渡を命ずる「引換給付判決」をすべきである。
問題の所在(論点)
物の引渡請求訴訟において、被告の留置権の抗弁が認められた場合、裁判所は請求棄却判決を下すべきか、それとも引換給付判決を下すべきか。
規範
物の引渡を求める訴訟において、被告が当該物に関して生じた債権に基づく留置権(民法295条1項)を抗弁として主張し、これが認められる場合であっても、裁判所は直ちに原告の請求を棄却すべきではない。衡平の観点から、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずる「引換給付判決」を下すべきである。
重要事実
建物の所有者である原告(被上告人)が、占有者である被告(上告人)に対し、建物の無条件明渡を求めて提訴した。これに対し、被告は建物に施した工事費等の償還請求権(有益費償還請求権等)を被担保債権とする留置権の抗弁を主張した。原審は、被告の工事の一部を改良工事(有益費)と認め、留置権の抗弁を理由があるとした上で、原告の請求を全面的に認容せず、有益費の償還と引換えに建物の明渡を命ずる判決を下した。被告は、留置権が認められる以上は請求を棄却すべきであるとして上告した。
あてはめ
原告が建物の無条件明渡を求める場合、引換給付判決は原告にとって一部敗訴にあたる。しかし、全部勝訴が得られない場合に全部敗訴(請求棄却)を望む当事者は通常考えられず、本件でも原告が請求棄却を甘受する意思は認められない。また、留置権は目的物の占有を継続して心理的強制を図る権利であり、債権の存在自体を否定するものではない。したがって、権利の性質および当事者の合理的意思に照らせば、債権の弁済を条件とする引換給付を命ずることが相当である。
結論
留置権の抗弁が理由あるときは、引換給付判決をなすべきであり、原告の請求を棄却する必要はない。本件の上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験等の答案作成上、留置権の抗弁が成立する際の結論として「引換給付判決」を導くための定番の判例である。民法上の留置権だけでなく、同時履行の抗弁権(民法533条)が認められる場合も、同様の論理構成で引換給付判決が導かれる。なお、原告が引換給付すら望まない(無条件明渡のみを求める)意思が明確な場合には請求棄却となる余地があるが、実務上・試験上は原則として引換給付判決の結論を採る。
事件番号: 昭和28(オ)1262 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃借人が造作買取請求権を行使した場合であっても、当該造作の代金債権を被担保債権として、建物本体について留置権を主張することはできない。 第1 事案の概要:上告人は、建物(本件家屋)を賃借していた者であるが、当該建物に設置した天幕(造作)について、賃貸人に対し造作買取請求権を有すると主張した。上…
事件番号: 昭和35(オ)321 / 裁判年月日: 昭和36年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産に関する留置権が成立するためには、被担保債権がその不動産に関して生じたものであること(牽連性)が必要であり、かつ、その債権額が証拠によって確定されなければならない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産の所有者である被上告人から明渡請求を受けた際、第三者(DおよびE)の入院費用や葬儀費用等…