一 借家法第五条は、賃貸借が賃借人の債務不履行ないしその背信行為のため解除された場合には、その適用がないものと解すべきである。 二 物の引渡を求める訴訟において、被告の留置権の抗弁を認容する場合には、原告の請求を全面的に棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきものと解するを相当とする。
一 債務不履行その他背信行為による賃貸借の解除と借家法第五条の適用の有無 二 物の引渡を求める訴訟において留置権の抗弁を認容する場合と判決主文
借家法5条,民法295条
判旨
留置権は目的物を留置して債務者の弁済を間接的に強制する権利にすぎず、優先弁済を目的とするものではないから、引渡請求に対し留置権の抗弁が認められる場合、裁判所は引換給付判決をすべきである。
問題の所在(論点)
物の引渡請求訴訟において、被告の留置権の抗弁が認められた場合、裁判所は請求を棄却すべきか、それとも引換給付判決を下すべきか。
規範
留置権(民法295条1項)は、物の占有者がその物に関して生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置することができる権利にすぎず、当該債権を他の債権に優先して弁済を受けさせることを趣旨とするものではない。したがって、物の引渡請求に対して留置権の抗弁を理由ありと認める場合、裁判所は、請求を棄却することなく、当該債務の弁済と引換えに物の引渡しを命ずる「引換給付判決」をすべきである。
重要事実
賃借人(上告人)が建物に関し有益費を支出したが、賃貸借終了後の建物明渡請求に対し、当該有益費償還請求権を被担保債権として留置権を主張した。原審は、有益費の支払と引換えに建物を明け渡すべき旨の引換給付判決を下した。これに対し上告人は、留置権が認められる以上は請求を棄却すべきであるとして上告した。
あてはめ
留置権は、占有者に目的物の留置を認めることで心理的圧迫を加え、履行を間接的に強制する制度である。これを認められたからといって請求そのものを棄却すれば、債権の弁済を得られないまま引渡請求権を失わせることになり、両当事者の公平を欠く。本件においても、被担保債権である有益費償還請求権の存在が認められる以上、留置権の効力を認めるべきであるが、それは「弁済を受けるまで留置できる」にとどまるため、弁済と引換えに引渡しを命ずるのが相当である。
結論
建物明渡請求に対し留置権の抗弁が認められるときは、有益費の支払と引換えに建物の明渡しを命ずべきであり、原審の引換給付判決は正当である。
実務上の射程
留置権に限らず、同時履行の抗弁権が認められた場合にも同様に引換給付判決(一部認容判決)がなされる。司法試験の答案作成においては、留置権や同時履行の抗弁が認められた場合の「判決の主文」の形を論じる際の根拠として用いる。また、判決文冒頭の言及から、債務不履行解除の場合には造作買取請求権(借家法5条、現借地借家法33条)が発生しないという別論点も確認できる。
事件番号: 昭和43(オ)586 / 裁判年月日: 昭和43年11月21日 / 結論: 棄却
不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されない。
事件番号: 昭和30(オ)993 / 裁判年月日: 昭和33年6月6日 / 結論: 棄却
一 家屋収去土地明渡請求に対し家屋買取請求権の行使があつた場合、右明渡請求は家屋の引渡を求める申立を包含する趣旨と解すべきである 二 物の引渡請求に対する留置権の抗弁を認容するときは、引渡請求を棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきである