判旨
自動車運転者が先行する自転車の蛇行運転を認識した場合、相手が自ら回避することを期待して注視や減速を怠ることは、過失相殺の対象となり得ても、運転者自身の過失を免れさせるものではない。
問題の所在(論点)
先行する自転車が蛇行運転を開始したことを認識した運転者が、相手が回避することを期待して注視や減速を怠った場合、不法行為上の過失(注意義務違反)が認められるか。
規範
自動車運転者は、道路状況や周囲の歩行者・車両等の動静に応じ、事故を未然に防止すべき注意義務を負う。先行車両等が危険な挙動を示していることを認識した場合には、相手方が適切に回避行動をとることを漫然と期待するのではなく、注視を継続し、必要に応じて減速や急停車の準備を行うなど、具体的状況に応じた回避措置を講じるべき義務がある。
重要事実
上告人Aは、橋上左側を自転車で通行中の被上告人が左右にふらつきながら蛇行し始めたのを認めた。しかし、Aは被上告人の蛇行運転がそのうち正常に戻って自車を避けてくれるものと判断し、動向の注視を怠り、従前の速度を維持したまま急停車の用意もせず進行した。その結果、本件事故が発生した。なお、被上告人は運転が拙劣で自ら欄干に衝突し、Aの自動車側に倒れ掛かってきたという事情があった。
あてはめ
Aは被上告人の蛇行運転を現に認識しており、事故発生の危険を予見し得たといえる。それにもかかわらず、相手が「避譲してくれるもの」と独善的に判断して注視を怠り、減速等の措置を講じなかったことは、結果回避義務に違反する。被上告人が自ら倒れ掛かってきたという事情は、被害者側の過失として過失相殺の対象にはなり得るものの、それをもって直ちに運転者Aの注意義務違反を否定する根拠にはならない。
結論
Aには注視義務および安全速度維持義務の違反が認められ、過失の成立を肯定した原審の判断は正当である。
事件番号: 昭和32(オ)760 / 裁判年月日: 昭和36年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者は、前方に同一方向に進行する自転車がある場合、進路の間隔を十分に保ち、自転車の予期せぬ挙動にも対応できるよう減速すべき注意義務を負い、また、使用者が民法715条1項但書による免責を受けるには選任及び監督の両方について相当の注意を尽くしたことを要する。 第1 事案の概要:加害者Aは、自動…
実務上の射程
信頼の原則が制限される場面(相手方の非正常な挙動を認識した場合)における運転者の注意義務を具体化したもの。被害者に重大な落ち度(自損に近い転倒)がある場合でも、加害者側の予見可能性・回避可能性が認められる限り、過失の成立自体は否定されないという実務上の規範を示している。
事件番号: 昭和32(オ)877 / 裁判年月日: 昭和34年11月26日 / 結論: 棄却
不法行為による損害賠償額の算定につき被害者の過失を斟酌すると否とは裁判所の自由裁量に属する。
事件番号: 昭和34(オ)15 / 裁判年月日: 昭和35年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、過失相殺の抗弁が認められるためには、証拠によって相手方の過失が確実に認定される必要がある。 第1 事案の概要:上告人の運転するオートバイと、右折しようとした被上告人の車両が衝突した事案。第一審および原審は、被上告人が右折時に約200メートル前方に上告人のオート…