鑑定の申出を採用しなかつたことが違法でないとされた事例。
判旨
当事者の申し出た証拠が唯一の証拠でない限り、その採否は事実審の自由裁量に属し、特定の鑑定の申出を採用しなくても採証法則違背や審理不尽の違法はない。
問題の所在(論点)
裁判所が当事者の申し出た証拠(鑑定)を採用しなかった場合に、採証法則違背や審理不尽の違法があるといえるか。特に、代理人による契約締結が認定されている場面において、本人の自署の有無を確認する鑑定が「唯一の証拠」にあたるか。
規範
民事訴訟における証拠の採否は、当事者が申し出た証拠が「唯一の証拠」でない限り、事実審裁判所の自由裁量に委ねられる。したがって、裁判所が証拠調べを不要と判断して却下したとしても、それが直ちに審理不尽や採証法則違背の違法となるものではない。
重要事実
上告人は、訴外Dを代理人として訴外Eの債務を担保するために、被上告人との間で本件土地建物について代物弁済予約等の合意をしたが、後にこれを錯誤により無効であると主張して争った。その際、契約書(甲第一号証の一)にある上告人の氏名が自署であるか否かを確認するための鑑定を申し出たが、原審はこの鑑定を採用せずに事実認定を行った。
あてはめ
本件では、上告人がDを代理人として本件代物弁済予約等の約諾をすべて行わせたことが原審において確定されている。この場合、契約書中の氏名が自署であるか否かは、代理権の存否や契約の成立という事実認定を左右する上で決定的な意義を持つものではない。したがって、当該鑑定は事実認定上必要不可欠な唯一の証拠とは認められず、原審が自由裁量に基づきこれを採用しなかったことに不当な点は認められない。
結論
原判決に採証法則違背や審理不尽の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
実務上、証拠決定の自由裁量を認めた判例として重要である。司法試験においては、証拠調べの必要性(民訴法181条1項)や「唯一の証拠」の例外を論じる際の根拠となる。ただし、本判決は代理人による契約を前提としているため、本人の関与自体が争点となる事案では、鑑定の重要性が増し「唯一の証拠」に該当しうる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和32(オ)748 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…
事件番号: 昭和32(オ)542 / 裁判年月日: 昭和35年6月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において当事者が第一審の弁論の結果を陳述したときは、第一審の訴訟資料はすべて控訴審に顕出されたものとみなされ、また、唯一の証拠方法でない証拠申出に対し許否を決定せず結審することは違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、控訴審において当事者双方が第一審の口頭弁論の結果を陳述したが、それは事…
事件番号: 昭和35(オ)312 / 裁判年月日: 昭和35年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定の前提となる証拠の取捨判断は、特段の事情がない限り事実審の専権に属する事項であり、これに対する不服は上告理由とならない。 第1 事案の概要:被上告人が本件土地建物を大正4年頃に訴外Dから買い受け、現に所有しているとの事実を一審判決が認定し、原審もこれを引用した。これに対し、上告人らは独自の…