賃貸借解約申入に基づく家屋明渡訴訟において当該解約申入に正当事由がなくても、その後正当事由を具備した後の口頭弁論により新たな解約申入をなしたものと認められた事例。
判旨
賃貸借の解約申入時に正当事由が欠けていても、訴訟継続中の口頭弁論期日に具備された場合には、その時点で正当事由のある解約申入がなされたものとみなされる。
問題の所在(論点)
解約申入時に正当事由が欠けている場合であっても、訴訟継続中に正当事由を具備するに至った場合に、改めて解約申入の効果を認めることができるか。また、その場合の解約効力の発生時期が問題となる。
規範
賃貸借の解約申入時に正当事由(旧借家法1条ノ2、現借地借家法28条参照)が存在しなくても、原告が家屋明渡請求訴訟を維持継続し口頭弁論期日に弁論を行った場合には、その都度被告に対し明渡を求める意思を表示したものと解すべきである。したがって、訴訟中に正当事由を具備するに至ったときは、その事情を記載した準備書面の陳述等が行われた口頭弁論期日において、改めて正当事由のある解約申入がなされたものと解するのが相当である。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人)に対し、家屋の明渡を求めて提訴した。当初の解約申入時および提訴時には、賃貸人側の正当事由が十分ではなかったが、訴訟継続中に賃貸人が妻帯し、さらに長女が誕生した。賃貸人は、これらの事情を記載した準備書面を第一審の口頭弁論期日(昭和33年1月17日)において陳述し、現住家屋では親子3人の生活に耐えられないことを明渡を求める事由として主張した。
あてはめ
本件では、訴え提起後の昭和31年5月に妻帯し、昭和32年6月に長女が出生したことで正当事由が具備されたと認められる。そして、賃貸人は昭和33年1月17日の口頭弁論期日において、これらの事実を記載した準備書面を陳述し明渡を求めている。これは、正当事由を備えた新たな解約申入としての意思表示と評価できる。したがって、当該期日から法定の6か月を経過した昭和33年7月18日に解約の効力が生じ、賃借人は明渡義務を負うと判断される。
結論
解約申入時に正当事由がなくても、訴訟継続中にこれを具備し、かつ明渡の意思表示(弁論)がなされれば、その時点から期間経過をもって解約の効力が生じる。本件明渡請求は結論において正当である。
実務上の射程
正当事由の具備時期に関する「基準時」の柔軟な運用を認める射程を有する。答案上は、訴え提起時に正当事由が不十分な事案でも、口頭弁論終結時までに事情変更(家族構成の変化や建物の老朽化進行等)があれば、判決時における明渡請求の正当性を基礎付ける論理として活用できる。ただし、解約効力の発生時期は「正当事由具備後の意思表示+法定期間経過後」となる点に注意を要する。
事件番号: 昭和35(オ)542 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の解約申入れにおける正当事由の存否については、原判決が掲げた一部の事情が不適切であったとしても、その他の諸事情を総合考慮して正当事由が認められるのであれば、判決の結果に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対して本件賃貸借契約の解約申入れを行った。原…