準消費貸借の目的たる約束手形金債務を特定するために、必ずしも手形要件のすべてを判示する要はない。
準消費貸借の目的たる約束手形金債務を特定するについて手形要件全部の判示を必要とするか。
民法588条,手形法75条
判旨
準消費貸借(民法588条)の目的となる既存債務の特定において、目的が手形金債務である場合には、必ずしも手形要件のすべてを明示する必要はなく、債務の発生原因、金額、当事者の関係等から債務の同一性が識別できれば足りる。
問題の所在(論点)
準消費貸借(民法588条)の成立要件として、既存債務の内容をどの程度具体的に特定すべきか。特に既存債務が手形債務である場合に、手形要件のすべての明示が必要か。
規範
準消費貸借が成立するためには、その目的となる既存債務の内容が特定されている必要があるが、その特定は、当該債務の同一性を認識し得る程度になされていれば足りる。既存債務が手形金債務である場合であっても、必ずしも手形要件のすべてを明示して特定しなければならないものではない。
重要事実
訴外合名会社が訴外Dに融資を受けさせる目的で、額面32万円の約束手形1通を振り出し交付した。被上告人は同手形を割り引いて譲り受け、満期に支払呈示をしたが支払を拒絶された。その後、被上告人はDを介して右訴外会社との間で、右手形金32万円を目的とする準消費貸借契約を締結し、当該手形を訴外会社に返還した。上告人は、準消費貸借の目的たる既存債務の特定が不十分であると主張して、その成立を争った。
あてはめ
本件では、①訴外会社が振り出した32万円の約束手形が存在すること、②被上告人がその所持人として支払呈示を行い拒絶されたこと、③被上告人と債務者(訴外会社)との間で、当該32万円の手形債務を目的として準消費貸借契約が締結され、手形が返還されたこと、が認定されている。これらの事実に照らせば、既存の手形金債務は客観的に特定されており、手形要件のすべてが判示に現れていなくとも、民法588条の適用に必要な債務の特定は十分になされているといえる。
結論
準消費貸借の目的たる既存債務が手形金債務である場合、手形要件のすべてを明示せずとも債務の特定は可能であり、本件準消費貸借は有効に成立する。
実務上の射程
準消費貸借の成立要件(既存債務の存在と特定)に関する基本判例である。答案上は、既存債務の特定が争点となる場面で、厳格な形式的特定(手形要件の列挙等)までは不要であり、実質的に債務の同一性が識別可能であれば足りる旨の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)197 / 裁判年月日: 昭和38年3月8日 / 結論: 破棄差戻
借主の代理人との間になされた消費賃借契約による貸金返還請求を主たる請求とし、代理人に代理権がない場合には、本人が代理人を通じ、右貸金を法律上の原因なくして受領したことによる不当利得金返還請求を予備的請求として併合した訴訟において、主たる請求を排斥する裁判をするときは同時に予備的請求についても裁判をすることを要する。