出征中の本人の所有財産管理の権限を与えられている者が右財産中の土地を代理権なく売却した場合に、原審認定の事情のもとでは、相手において代理権ありと信ずる正当の理由がある。
民法第一一〇条の「正当ノ理由」があるとされた事例。
民法110条
判旨
管理代理権を有する者が権限外の行為をした場合、本人の出征等の特殊な事情や管理の実態に照らし、相手方が権限ありと信ずべき正当な理由があれば、表見代理が成立する。
問題の所在(論点)
民法110条の「正当な理由」の判断において、本人の不在(出征)や広範な管理権の付与といった事情をどのように考慮すべきか。
規範
民法110条の権限外の行為の表見代理が成立するためには、基本代理権が存在すること、及び相手方が代理人の権限があると信ずべき「正当な理由」があることを要する。この「正当な理由」の有無は、本人の状況、代理権授与の経緯、代理人の管理実態等の諸般の事情を総合して判断される。
重要事実
本人の上告人は出征しており、その間、訴外Eに対して本件土地を含む土地の管理代理権を与えていた。Eは、この管理権限を超えて本件土地を処分する等の代理行為を行った。相手方である訴外Dらは、Eに当該処分権限があるものと信じて取引を行ったが、その信じたことに過失がなく正当と言えるかが争点となった。
事件番号: 昭和34(オ)759 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の濫用(民法1条3項)の成否は、原審が確定した事実に即して判断されるべきであり、権利行使が正当な範囲を逸脱していると認められない限り、その請求は容認される。 第1 事案の概要:本判決文からは具体的な事案の詳細は不明であるが、上告人が被上告人の請求に対し、民法1条に違反する権利の濫用であると主張…
あてはめ
本件では、上告人が出征中であり、Eに対して本件土地を含む土地全般の管理権限を与えていたという事情がある。このような不在時における包括的な管理実態の下では、相手方がEに処分権限まであると信じるのも無理からぬ側面がある。原審が詳細に認定した出征当時の事情や管理権限の範囲に照らせば、DらがEに権限があると信じたことには正当な理由があると認められる。
結論
Eの行為について民法110条の表見代理の成立が認められ、上告人はDらに対してその責任を負う。
実務上の射程
基本代理権が管理権である場合に、処分行為について110条が適用されるかという典型場面である。本人の不在(出征)という特殊事情が「正当な理由」を基礎付ける重要な間接事実として機能している。答案上は、本人の帰責性と相手方の信頼保護の比較衡量において、本人が代理人にどの程度の範囲の事務を委ねていたかという「管理の実態」を具体的事実から拾う際に活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)395 / 裁判年月日: 昭和39年11月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占有権原がない建物の譲受人に対し、土地所有者が建物の撤去及び土地の明渡しを求めることは、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:Dは、厚生省の出張所に勤務しており、上司の了解を得て本件土地上に本件建物を所有・使用していた。しかし、土地所有者である被上告人は、Dに対し当初か…
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…
事件番号: 昭和35(オ)347 / 裁判年月日: 昭和38年7月25日 / 結論: 棄却
代理権消滅の事実を相手方の代理人が知つていた場合には、民法第一一二条による表見代理は成立しない。
事件番号: 昭和34(オ)975 / 裁判年月日: 昭和38年2月21日 / 結論: 棄却
原告の土地明渡請求に対し、被告が第一審において右土地について賃借権を有する旨主張し、同審が右賃借権の存在を肯認した場合に、控訴審において被告が更に反訴として右賃借権存在確認の訴を提起するには、相手方たる原告の同意を要しないものと解するのが相当である。