判旨
国(行政庁)の出張所長等が、本来の権限外の契約を締結した場合において、相手方がその権限を信ずるに足りる正当な理由がない限り、表見代理の成立を否定すべきである。
問題の所在(論点)
国(被上告人)の出張所長Aが行った交換契約の締結に関し、Aに代理権もしくは復代理権(民法99条・101条)が認められるか、あるいは権限踰越の表見代理(民法110条)が成立するか。
規範
民法110条の表見代理が成立するためには、代理人がその権限外の行為をしたこと、および相手方がその代理権があると信ずべき「正当な理由」があることが必要である。特に行政組織内部の権限分配がある場合、相手方において当該職員が契約締結の権限を有していない旨を明言されていたり、上位組織の決裁が必要であることを認識し得た状況下では、正当な理由を認めることはできない。
重要事実
上告人と被上告人(国側)との間で本件交換契約の交渉が行われた。被上告人側の窓口はA出張所長であったが、Aは契約締結の権限を有していない旨を相手方に言明していた。また、本件契約の成立には地方局長の決裁が必要とされる組織構造であった。契約締結後数日にしてAが物件の模様替工事に着工した事実はあるが、これは将来的な決裁取得を期待した行動に過ぎず、権限の有無に関する言明を覆すものではなかった。D局長、E部長、F課長ら上級職からの指示内容に照らしても、Aに代理権や復代理権を付与した事実は認められなかった。
あてはめ
まず、組織上の権限分配によれば、A出張所長には本件交換契約を締結する独自の権限も、上位者からの復代理権も付与されていない。次に、表見代理の成否について検討すると、Aは契約締結に際して自らに権限がないことを明言しており、相手方もこれを認識し得たといえる。工事着手等の事実はあったものの、それは局長決裁を前提とした期待に基づく行動にすぎず、客観的にAに権限があると信ずべき正当な理由(民法110条)を構成するものではない。したがって、相手方の信頼は保護に値しない。
結論
Aに代理権はなく、表見代理も成立しないため、本件契約の効力は被上告人(国)に帰属しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
行政主体の出先機関との取引において、相手方が権限欠如の明言を受けていた場合や、決裁手続の必要性を認識していた場合には、表見代理の成立が厳格に制限されることを示唆している。
事件番号: 昭和31(オ)682 / 裁判年月日: 昭和36年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請負契約において、注文者が請負人の技術不足等を知りながら技術援助の約束を反故にし、あえて履行遅延を放置して多額の違約金を請求することは、信義誠実の原則に反し許されない。 第1 事案の概要:上告人(注文者)は、高度な技術を要する電解槽の製作を、技術不足の被上告人(請負人)らに発注した。工事が難航する…