判旨
名誉毀損による不法行為が成立するためには、単に侮蔑的な言辞を吐くだけでなく、その場に被害者がいたか、あるいは第三者の関与により社会的な評価が低下し得る客観的状況があったか等の事実関係を審理する必要がある。
問題の所在(論点)
不特定の第三者が存在する場での抽象的な罵倒表現が、直ちに民法上の名誉毀損による不法行為を構成するか。特に、被害者の現存や第三者への伝播可能性、及び特定性の認定に欠ける場合の審理のあり方が問題となる。
規範
民法709条、710条に基づく名誉毀損の成否については、発言が特定の人物を指しているかという点に加え、発言の場の状況、周囲の第三者との関係、及び加害者の意思等の諸事情を総合して、社会的評価を低下させる客観的実態があるかを審理すべきである。
重要事実
被告と原告は建物の売買を巡り不仲であった。被告は路上で第三者に対し「町内には地所泥棒しかおらん」と発言し、また写真コンクールの際に多数の人が集まる中で原告宅へ向かい「地所泥棒」と連呼した。原審はこれが名誉毀損または侮辱罪に該当するとして不法行為の成立を認めた。
あてはめ
本件では、(1)路上での発言時に被害者が同席していたか、及び対話相手と被害者にどのような関係があるのかが不明である。また(2)店舗前での発言についても、その店舗が誰の所有か、写真コンクールが被害者とどう関連するのかが示されていない。これらの事実関係が確定されない限り、被告に被害者の名誉を毀損する意思があったか、あるいは客観的に名誉を毀損したかを判断することはできない。
結論
被告の発言が直ちに名誉毀損を構成するとした原判決は、事実関係の審理不尽による理由不備の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
事件番号: 昭和37(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和38年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他者を侮辱する言動が不法行為(民法709条)を構成する場合、被害者の言動等の諸事情を斟酌して慰謝料額を算定することが認められる。また、具体的な侮辱行為が権利侵害に当たるとした原審の判断は、特段の事情がない限り正当として維持される。 第1 事案の概要:上告人(控訴人)が被上告人(被控訴人)に対し、原…
本判決は、侮辱的言辞が直ちに名誉毀損となるわけではなく、具体的な文脈(誰に対して、どのような状況で、誰が聞いたか)を詳細に認定する必要があることを示唆している。答案上は、名誉毀損の要件である「特定性」や「社会的評価の低下」を検討する際、事実認定の緻密さを求める根拠として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)634 / 裁判年月日: 昭和31年7月20日 / 結論: 棄却
一 法人に対する民法第四四条に基く損害賠償の請求と同法第七一五条に基く損害賠償の請求とは、訴訟物を異にする。 二 一定の新聞記事の内容が事実に反し名誉を毀損すべき意味のものかどうかは、一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。 三 新聞に事実に反する記事を掲載頒布し、これにより他人の名誉を毀損すること…