公務員が関税法違反等被疑事件について船舶を差し押え、その保管を公務員以外の者に依頼した場合において、その船舶が原審認定のような状況(原判決理由参照)のもとで沈没するに至つたとき、該船舶の保管に関し、当該公務員が右の者に対しいかなる指示監督をし、その者がいかなる措置を講じたかについてなんら具体的説明をすることなく、当該公務員に該船舶管理上の過失なしと判断することは、審理不尽、理由不備である。
差押船舶の沈没についてその保管の責に任ずる公務員に過失なしとした判断が理由不備とされた事例。
国家賠償法1条,民訴法395条1項6号
判旨
公務員が公権力の行使により私人の物件を保管する場合、第三者に委託したか否かを問わず、常に善管注意義務を負う。また、物件が損壊した後にされた没収裁判は、対象を欠き無効であるため、損害との因果関係を遮断しない。
問題の所在(論点)
1. 公権力に基づき私人の物件を保管する公務員が負う注意義務の程度。 2. 物件の滅失後に確定した没収裁判が、保管上の過失と所有権喪失という損害との間の因果関係を遮断するか。
規範
1. 公務員が公権力の行使によって私人の物件を保管する場合、当該公務員は、保存を第三者に委託したか否かを問わず、常に善良なる管理者の注意をもって当該物件を保管すべき義務を負う。 2. すでに大破沈没して原形をとどめない物件に対する没収の裁判は、対象を欠くため無効である。
重要事実
上告人所有の機帆船が関税法違反事件に関連して税関吏に差し押さえられ、管理が民間業者(I及びJ)に再委託された。Jは、安全な西港に入港できず、一時的に風当たりの強い西港入口付近に碇泊させていた。その際、保管責任は税関から検察官へ引き継がれたが、台風の襲来により船舶は大破沈没した。沈没後、裁判所は当該船舶の没収を言い渡し、確定した。原審は、公務員の選任監督に過失はなく不可抗力であること、また没収裁判により所有権が喪失したため過失と損害の因果関係がないことを理由に請求を棄却した。
あてはめ
1. 本件船舶が碇泊していた場所は、安全な西港への一時的仮泊場所に過ぎず、風波に対して必ずしも安全でないことを関係公務員らは認識し得た。海上不安の兆候がある以上、気象条件の変化に深甚の注意を払い、船舶の安全保持につき万全の措置を講ずる義務がある。原審が具体的な指示監督の有無を検討せず不可抗力としたのは審理不尽である。 2. 没収裁判の当時、船舶は既に大破沈没して原形を留めていなかった。船舶の没収という裁判は対象を欠き無効であるから、上告人の所有権喪失の原因を没収裁判に求めることはできず、保管上の過失と損害との因果関係は否定されない。
結論
公務員は善管注意義務を負い、気象変化に応じた安全確保措置を講じるべきである。また、滅失後の没収裁判は無効であり、過失と損害の因果関係を否定する理由にはならない。
実務上の射程
国家賠償法1条1項の「過失」の判断において、公権力による保管事案では善管注意義務が基準となることを示した。また、損害発生後に生じた法的形式(無効な没収裁判)によって因果関係が遮断されないとする論理は、賠償責任の範囲を画定する際の重要指針となる。
事件番号: 昭和31(オ)453 / 裁判年月日: 昭和34年1月22日 / 結論: 棄却
仮処分の執行として執行吏が適法に選任した保管人の不法行為によつて生じた損害については、右選任につき執行吏に過失がないかぎり、国に賠償責任はない。