一方において売買予約の成立を推定するに足る間接事実を認定しておきながら、他方首肯するに足る理由を示すことなく売買予約の成立を否定した原判決には、審理不尽理由不備則の違法がある。
審理不尽、理由不備の違法があるとされた事例。
民訴法395条1項6項
判旨
売買予約の成立を推認させる十分な間接事実が認定されている場合には、契約書が作成されていないことや手附金・内金の授受がないことのみをもって、直ちに予約の成立を否定することはできない。
問題の所在(論点)
契約書が作成されておらず、手附金や内金の授受もない場合であっても、当事者間の交渉経過や準備行為等の間接事実に基づき、売買予約の成立を認めることができるか。
規範
売買予約(民法556条等)の成否は、当事者の合意の有無を客観的事実に基づき総合的に判断すべきである。特に、目的物の特定、代金の目安、売買に向けた具体的準備行為の実施等の間接事実から契約成立の蓋然性が認められる場合には、特段の合理的根拠がない限り、書面の欠如や金銭授受の不存在といった形式的理由のみでその成立を否定することは許されない。
重要事実
被上告組合は総会で立木売却を決定し、売却交渉委員を選任して上告人に売却を打診した。その後、組合側は上告人を山林に案内し、上告人の要請で立木の区画及び石数調査を実施した際にも組合長代理が立ち会った。上告人は組合長に対し具体的な買受価格と支払条件を提示し、さらに組合側の依頼を受けて自己負担で伐採許可手続を行い、県知事から許可を得た。しかし、原審は、手附金・内金の授受がなく契約書も作成されていないことを理由に、売買予約の成立を否定した。
事件番号: 昭和28(オ)277 / 裁判年月日: 昭和30年1月28日 / 結論: 棄却
裁判長たる裁判官が、当事者の一方の訴訟代理人の女婿であるからといつて、民訴第三七条第一項にいわゆる裁判の公正を妨ぐべき事情があるものとはいえない。
あてはめ
本件では、組合による売却意思の決定、交渉委員の選任、目的物の区画、石数調査への立会い、さらには上告人による伐採許可の取得といった、予約成立の蓋然性を強く推定させる間接事実が多数存在する。これに対し、契約書の不在や内金の未払いは、当時の取引慣行や具体的な交渉状況に照らせば、必ずしも予約の成立を妨げる決定的な事情とはいえない。原審は、これら有力な間接事実を否定するに足りる合理的な根拠を示すことなく、形式的な理由のみで予約不成立と断じており、審理不尽・理由不備があるといえる。
結論
契約書や内金授受がないことのみを理由に予約成立を否定した原審の判断には違法があり、破棄を免れない。売買予約の成否は改めて審理されるべきである。
実務上の射程
契約締結上の過失や予約成立が争われる事案において、形式的な書面よりも実態的な交渉・準備行為(特に費用負担を伴うもの)を重視して契約の成否を判断する際の論拠となる。実務上、契約書未作成でも事実上の合意形成が進んでいる場合には、法的拘束力を認め得ることを示した事例である。
事件番号: 昭和24(オ)305 / 裁判年月日: 昭和28年2月17日 / 結論: 棄却
本件の様に、上告人の代金額を定めない申入れに対し被上告人から代金額を定めた返答があり、これに対して上告人が代金額を争い、両三回に亘り被上告人から被上告人の定めた代金額を受諾すべき旨の申入があつたに拘わらず、上告人がこれに応じなかつた如き場合においては代金額の不一致により契約が成立しなかつたものと見るのが通常である。
事件番号: 昭和40(オ)1060 / 裁判年月日: 昭和42年6月22日 / 結論: 棄却
山林の売買予約の成立を否定した二審の判断について審理不尽、理由不備を理由として差した場合において、差戻後の二審判決が、たまたま差戻前の判決の結論と一致していたとしても、その前提となる間接事実が異なる以上、民訴法第四〇七条第二項に違反しないというべきである。
事件番号: 昭和36(オ)675 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に契約の成立を希望する意思の合致があったとしても、直ちに契約が成立したと認めることはできず、確定的に契約の締結に至ったか否かは、当時の実情や動機等の事実関係を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、建物の所有者である被上告人に対し、今後半年から2年の間に当該建物を買い受ける…