一 売主が目的物を引き渡さないため売買契約が解除された場合において買主の受くべき填補賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準として定められる。 二 右の場合騰貴価格と契約時の価格の差額は通常生ずべき損害である。
一 解除による填補賠償の額算定の標準時 二 契約時と解除時の騰貴差額は通常生ずべき損害か
民法545条,民法415条,民法416条
判旨
売買契約が債務不履行により解除された場合の填補賠償額は、原則として解除当時における目的物の時価を標準として算定すべきであり、契約時からの価格騰貴による差額は通常生ずべき損害にあたる。
問題の所在(論点)
債務不履行による契約解除に伴う損害賠償額の算定時期、および目的物の価格騰貴による差額が「通常生ずべき損害」として認められるか。
規範
債務不履行を理由に売買契約が解除された場合における填補賠償の額は、原則として解除当時における目的物の時価を標準として算定すべきである。また、契約時から解除時にかけて目的物の価格が騰貴した場合、その差額分は債務不履行により通常生ずべき損害(民法416条1項)に含まれると解するのが相当である。
重要事実
買主(被上告人)と売主(上告人)は、昭和27年6月に本件山林内の杉檜立木の売買契約を締結した。履行期は同年11月末日とされたが、売主は契約外の松材の伐採搬出を優先したため、履行期までに本件立木を引き渡さなかった。買主は履行期後に度々督促を行ったが、売主が一部しか履行しなかったため、昭和28年11月に契約を解除した。この間、目的物の時価は契約時の約1.8倍に騰貴していた。
あてはめ
本件では、売主の責に帰すべき事由により履行遅滞が生じ、相当期間を経た催告後に有効な解除がなされている。解除時における目的物の時価は契約時の1.8倍に達していたが、解除当時においても本来の給付を請求し得たはずの買主にとって、この価格騰貴による差額は売主の不履行により通常生ずべき損害といえる。したがって、特段の予見可能性の有無を問わず、解除時の時価を基準として賠償額を算定すべきである。
結論
売買契約解除による填補賠償額は解除当時の時価を標準とすべきであり、時価騰貴分を損害と認めた原判決は正当である。
実務上の射程
解除による填補賠償の算定時期を「解除時」と確定させた重要判例である。転売利益等の特別損害(416条2項)の枠組みではなく、履行に代わる賠償として416条1項の「通常損害」の範囲で時価騰貴分を認めている点が特徴であり、答案では損害算定の基準時を論じる際の決定的な根拠となる。
事件番号: 昭和32(オ)710 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】売買契約解除による損害賠償において、解除時の時価が約定価格より低い場合はその差額を通常損害とし、時価以下で売却せざるを得ない特別事情がある場合はその差額を特別損害とする。 第1 事案の概要:売主(被上告人)は、債務整理の必要から買主(上告人)に物件を売却したが、買主が代金支払を怠ったため契約を解除…
事件番号: 昭和28(オ)1027 / 裁判年月日: 昭和31年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約解除後の損害賠償額の算定において、解除当時における目的物の時価相当額を標準として、商人である買主に通常生ずべき損害を算定することは正当である。 第1 事案の概要:木材販売業者である被上告人と、上告人との間で木材の売買契約が締結された。上告人(売主)の木材引渡義務について債務不履行が発生した…