一 他人の物の売買にあつては、その目的物の所有者が、売買成立当時からその物を他に譲渡する意思がなく、従つて、売主において、これを取得し買主に移転することができないような場合であつても、なお、その売買契約は、有効に成立する。 二 他人の物の売買において、売主が、その売却した権利を取得してこれを買主に移転することができないときは、その履行の不能が、原始的であると後発的であるとを問わず、また、売主の責に帰すべき事由によるものと否とを問わず、買主は、ただそれだけの事由に基ずき契約の解除をすることができる。
一 原始的不能と他人の物の売買の成立 二 他人の物の売買の履行不能と契約の解除権
民法560条,民法561条
判旨
他人の物の売買において、売買成立当時から所有者に譲渡の意思がなく履行不能であっても、民法561条等の特則により契約は有効に成立する。また、同条に基づく契約解除は、履行不能が原始的か後発的かを問わず、また売主の帰責事由の有無を問わずに認められる。
問題の所在(論点)
他人の権利の売買において、契約締結当初から権利移転が客観的に不能(原始的不能)な場合に、売買契約は有効に成立するか。また、民法561条に基づく解除において、履行不能が原始的であることや売主の帰責事由は要件となるか。
規範
1. 原始的不能の原則的無効の例外:一般に客観的不能な契約は無効だが、他人の権利の売買(民法560条)においては、民法561条から564条が原始的不能の場合を包含する特別規定を設けているため、売買成立時に目的物の取得・移転が不可能な場合でも契約は有効に成立する。2. 解除の要件:他人の権利の売買における売主の移転義務が履行不能となった場合、買主は、不能が原始的か後発的かを問わず、また売主に帰責事由があるか否かを問わず、民法561条に基づき契約を解除できる。
重要事実
売主(上告人)と買主(被上告人)との間で、当時訴外Dが所有していた建物を目的とする売買契約が締結された。当該建物の所有者Dには売買当時から他に譲渡する意思がなく、売主が権利を取得して買主に移転することができない状態であった(原始的不能)。買主は、所有権移転が不能であることを理由に、売買契約の解除を主張した。これに対し、売主側は契約が原始的不能により無効であることや、帰責事由の存否について争った。
あてはめ
本件売買はD所有の建物を目的とする「他人の物の売買」である。たとえ所有者Dに譲渡の意思がなく、当初から権利移転が不可能であったとしても、民法が他人の権利の売買について特別の規定を置いている以上、契約は有効に成立する。また、被上告人が行使した解除権は、裁判長の釈明により民法561条に基づくものと特定されている。同条による解除は、移転不能という客観的事実があれば足り、不能が原始的か後発的か、あるいは売主に帰責事由があるかという点は結論を左右しない。
結論
本件売買契約は有効に成立しており、買主は売主の帰責事由の有無にかかわらず、権利移転の不能を理由として民法561条に基づき契約を有効に解除できる。
実務上の射程
契約締結上の過失や原始的不能による無効の法理に対する「他人の権利の売買」の特則性を明確にした判例である。改正民法下でも、他人の権利の売買が有効である点に変更はないが、旧法561条の「解除」は現在、債務不履行の一般規定(541条、542条)に統合されている。ただし、原始的不能であっても契約が有効であり、債務不履行責任(追完・解除・損害賠償)を追及できるという法理の基礎として重要である。
事件番号: 昭和27(オ)505 / 裁判年月日: 昭和30年9月23日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立が争われる事案において、当事者の主張がないにもかかわらず裁判所が表見代理を認めることは審理不尽であり、また単なる出張所長への任命事実のみをもって直ちに代理権の授与表示があったと判断することはできない。 第1 事案の概要:上告人会社(被告)の出張所長を自称したDが、被上告人(原告)と昆…