判旨
納税者の帳簿が完備せず直接資料を欠く場合、後日の在庫高から過去の平均在庫高を推定して所得金額を算定する推計課税の方法も、合理的である限り適法である。
問題の所在(論点)
納税者の帳簿が不完備な場合において、処分時より後の時点の在庫高を基礎として過去の所得を推計する算定手法(推計課税)は、所得税法上の更正処分として適法か。
規範
課税処分における所得金額の認定において、納税者の帳簿が完備せず、かつ他に直接的な資料がない場合には、間接的な資料に基づき合理的な推計によって所得を算定することが許容される。この際、後日の在庫品現在高等の客観的事実に基づき、過去の平均在庫高や所得額を推認する手法も、その推論過程に合理性がある限り、直ちに違法とはならない。
重要事実
上告人は、昭和24年度の所得金額について税務署長(被上告人)から更正処分を受けた。上告人の帳簿は不完備であり、正確な所得を直接把握できる資料が欠如していた。そこで被上告人は、昭和25年2月時点の在庫品現在高に関する資料(公務員が作成し、後に成立の真正が認められた書証)に基づき、昭和24年中の平均在庫高を推定し、これをもとに所得金額を算出した。上告人は、前年度所得との乖離や他店との比較、さらには算定の基礎となった在庫高の認定に誤りがあるとして、処分の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
まず、上告人の帳簿が完備せず資料がない状況下では、昭和25年2月の在庫品から24年中の平均在庫高を推定することは「やむを得ない」措置といえる。次に、推計の基礎となった書証(乙14号証)は、公務員が職務上作成したものであり、証人尋問を通じてもその成立の経過が詳細に認定されているため、証拠能力・証明力ともに認められる。また、前年度所得との金額差については、前年度が申告通りに確定したに過ぎず、当該年度の認定を不合理とする理由にはならない。さらに、他人の所得との比較も本人の所得認定とは直接関係しない。したがって、本件の推認過程に違法な点は見当たらない。
結論
帳簿不完備等の状況下で、合理的資料に基づき平均在庫高を推定して所得を算定する手法は適法であり、本件更正処分を違法とすることはできない。
事件番号: 昭和30(オ)735 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】推計課税において、特段の事情がない限り仕入品の利益率から売上品の利益率を推定することは合理的であり、課税庁が更正時に使用しなかった資料であっても、それが所得を適正に推計し得るものである限り、更正の正当性を基礎付ける証拠として用いることができる。 第1 事案の概要:上告人は、昭和26年度の所得税につ…
実務上の射程
推計課税の合理性が問われる事案において、帳簿の不備という前提条件と、推計の基礎となる間接事実(本件では後日の在庫高)の客観性・関連性を論証する際の規範として活用できる。立証責任については、課税側がその推計の合理性を基礎づける事実を主張立証すべきことを示唆している。
事件番号: 昭和29(オ)64 / 裁判年月日: 昭和31年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得額の算定について、仕入商品に対する利益率を推計により認定すること、および雑損金の有無を原審の判断に委ねることは、法令の解釈に関する重要な主張を含まない適法なものとされる。 第1 事案の概要:上告人は、税務当局による所得算定の基礎となった利益率の推計方法および雑損金の不算入につい…
事件番号: 昭和38(オ)1455 / 裁判年月日: 昭和40年7月6日 / 結論: 棄却
国税局作成に係る商工庶業所得標準率表に掲げた当該年度の所得標準率を適用し、かつ右標準率作成につき考慮外に置かれた特別経費を控除して推計された事業所得金額は、右所得標準率の当該事業に対する適用が具体的に妥当しない事実の証明のないかぎり、一応右事業所得金額とするに足りる真実近似性を保有するものと推定するのを妨げない。
事件番号: 昭和37(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得金額の推計に関し、被上告人が採用した所得標準率の作成方法が適正である限り、これを用いて農業所得を算出することは、推計の手法として不相当とはいえず適法である。 第1 事案の概要:上告人は農業所得等の金額算出において、被上告人が採用した所得標準率に不服を申し立てた。具体的には、麦の…
事件番号: 平成14(行ヒ)112 / 裁判年月日: 平成17年11月8日 / 結論: 破棄差戻
昭和62年に個人が非上場株式を低額で譲り受けたことによる給与所得に係る収入金額とすべき金額,同年に個人が法人に対し非上場株式を低額で譲渡したことによる譲渡所得に係る総収入金額に算入すべき金額及び同年に個人が有利な発行価額による非上場の新株を取得する権利を与えられたことによる一時所得に係る総収入金額に算入すべき金額の各計…